7 バスタ小説「生贄」第二話
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現実という恐怖・・・・時は停まり、世界が停まり、運命というなの事象が変化し、己の周りのベクトルが回転し・・・・そして、時はまた動き出す。「終末」という名の絶望とともに・・・・・・


「キャー!」


俺の後ろ・・エアポート側にいた女性が叫び声を挙げる。反射的に声がする方角に首を振る。

・・・・・・・

な、なんだ・・何かがこちらに突っ込んでくる。

「あれは・・・飛行機・・・か?」

ヤバイ!っと感じたのと同時に急激に回りの動きが酷くゆっくりになる。こ、こいつは・・・あれか?いわゆる死の境地に陥ったときに感じる異常に研ぎ覚まされたあの感覚。
ゆっくりと近づいてくる旅客機・・・やばい、逃げなければ・・・だめだ感覚に体がまったく付いていかない。いや、まったく反応できない・・・だめか・・・・





数秒後なにか爆音が聞こえ、俺の意識は混濁した




ん・・・・ここは?死んだ・・・か?いや、違う

「イヤァァァァァ!!」

断末魔があちらこちらから聞こえる。
「痛ッ!」
あちらこちらに痛みを感じる。体に異常はあるもののどうやらまだ生きているようだ。動けるか?
よし、なんとか動ける・・・ハッ!よ、頼子は!

「頼子ー!頼子ー!返事しろー!」

俺は反射的に頼子の名を呼びつづける

・・・・・・・た・・・・・・・ろ・・・・・・・・・つろ・・・・・・・う・・・・・

「頼子?」

頼子の声が聞こえた。いや、「感じたと言うべきだろうか。なぜなら頼子のその「声」を聞いたのと同時に彼女の「位置」を理解していたから。

「瓦礫の下か!」

俺は積み重ねられた瓦礫を掻き分けていく。体が軋むように痛むがそれに構っている余裕は無かった。

「・・・・・!頼子!」

掻き分けたその下には確かに頼子がいた。幸運にも頼子の上にある二枚の大きな瓦礫の板は上手く重なり、空間を形成している。俺はゆっくりとそれでも迅速に頼子を助け出す。見ると奇跡的に外傷はかすり傷だけのようだ。

「頼子。頼子!」

俺は頼子の体をゆすってみる。

「う・・・うん・・・」

よかった・・・意識もある。

「しかし・・・これは・・・・・」

まさに地獄絵図とはこれのことを言うのだろう。改めてみた空港内はおよそ空港のロビーだったという面影はなく、人々の叫び声、うめき声が聞こえてくる。まさに地獄だった。
「ひどいな・・・・・・・・・・!!
なんだ!急に背後・・・それもすぐ真後ろでいやな感覚を覚えた。日々喧嘩に明け暮れた俺は人の気配に対しては人一倍敏感だ。が、感じているそれはいつも感じる「それ」とは異質のものだった。ただ『ヤバイ』という感覚が俺にアラームを鳴らす。おれはとっさに後ろを振り向いた。

な・・・・なんだ・・・・ひ、人・・・・か?

そこにいたものは「人」だった・・・ただ人と断定するには違和感を感じた・・・・その「人」には・・・・「羽」が付いていたからだ・・・・。





第2話
デアイ



同空港内、ディータ=ダークス

「これが『お告げ』の答えなわけだな」
あたしはほんの数十秒前に地獄に変わった空港のロビーを見ながら呟いた。
え?お前は平気だったのかって?オフコース!私は仮にも「欧州の魔女ッ子」。こんな災悪ぐらい軽く退けて見せる。

「何言ってんだよ!俺達が『結界』を張ってやったおかげだろか!」

む!余計なことをあたしの頭の中で言うんじゃない!せっかくかっこよく決めていたのに。あいつは後でおしおき決定。ま、ばれちゃしょうがないな。私がピンピンしているのは、使い魔のあいつらがとっさに『結界』を張ってくれたおかげなわけだ。まぁそのとき魔力を開放したから今は本来の姿に戻っているがな。彼らが元の姿に戻っているときは『テレパス』という相手の思考に直接語りかける能力で会話する。さっき「頭の中」っていったのはこのテレパスを使ったからってわけだ。

「ご主人様。うんちくもいいですけれど今のこの状況をどーにかしないとまずいのではないですか?」

う、冷静に突っ込むなっつーの。

「頼子ぉー!」

ん?あれはアダム1。頼子ってさっきの連れの女か?

「ご主人様。あの方の手伝いをしてあげましょうよ」

うむ、確かにそうだな。ん?急に動きが止まった・・・瓦礫を掻き分けてるな。ん、女を引きずり出してきた・・・ほぉ、頼子とかいう女の気配を感じたのか。しかもこれだけ強烈な思念が入り乱れているこの場で。「能力者」としての素質もアリということか・・・。

「オマエ、なに説明的独り言に酔ってんだヨ。どっか打ったんじゃねぇのか?」

頭の中でガンガンしゃべるな。

「このくそ鳥!ご主人様には敬愛をこめて敬語を使え!」

横で羽ばたいているクソ鳥(デヴィンの元の姿)に向かって説教をする。

「ハァ?おまえのようなイッチマッタ女にはこのぐらいがちょうど・・・!」

クソ憎たらしい反論を途中で止める。何かを感じた・・・私も感じる・・・アダム1の方からだ。

「ご、ご主人様・・・・あれは・・・・」

ラヴリエーの少しおびえを含んだ声。私は彼のいた方に顔を向きなおした。その方向にあったものは・・・

「!・・・あ、あれは・・・・『天使』・・・・」

私は一瞬で理解した。アダム1の後ろに突如出現した翼の生えた人・・・明らかに異質の『気』を発するその生命体。あるときは人々に啓示をさずけ、あるときは『天罰』という名の大量虐殺を行う『神』の忠実なる下僕。

「ついに・・・始まるのか・・・全てはあの書の告げるままに」

自分でも驚くほど今ある事実を冷静に受け止めた。
預言書に記された最終戦争の前哨戦、天使と悪魔の地上における大戦『アーマゲドン(予言戦争)』

「それにしても・・・・」


既に天使もアダム1を追っていたとはな。これも『予言』の通りというわけか・・。
いま彼を天使の手に掛からせる訳にはいかない・・・だが・・・手の打ちようが無い・・・ん?
アダム1の顔を見つめていた天使はふと何かに気がついたかのように視線を別のほうに向けた。私はその天使の視線の先をおった。その先にあるものは・・

「え?女?」

その先には座り込んだままの少女がいた。制服を着ているところからハイスクールぐらいだろうか。少女もその天使を見つめていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばしの沈黙
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

バサッ

少女を見つめていた天使は突如その大きな翼をはばたかせる。そしてあっという間にその姿を大空に紛らせてしまった。

「な、なんなの今は・・・」

私は呆然としていた。そりゃそうだ、こちらから見れば突然、何の脈略もなく、それこそ何もせず、この場を離れたのだから。
ただこれだけは分かる。「あの娘」に何かある。

「さて。ラブリエー!デヴィン!アダム1・・・あの子達を助けるわよ」

私は彼らに向かって歩き出した。
天使の居なくなったこの場は、すでに霊波が薄くなりだしていた。





翼の生えたその生命体はおれの瞳をじっと見据えたた。
俺を見据えるその瞳・・・怒り、悲しみといった感情を感じさせないただ「見ている」だけの『機械的』と形容するにふさわしいその瞳は俺に「死」を直感させた。

死ぬか・・・・でも頼子は・・・

そう、頼子だけは守らなければ、ただそれだけを考えていた。『死』に対する恐怖は無いといったら嘘になるが、かといって「死んでも生き残る」というほどの『生』への執着というのも希薄だ。あえて執着を持つとすれば頼子と「し」たかったということだろうか。一度試みたことがあるがその時はいろいろあって未遂だっただけに口惜しい・・・・っていまはそんな悠長なことを考えている場合ではないか。ま、そんなこと考えているだけの心の余裕があったという証拠ではあるが。

俺は翼のついたそいつを睨みつける。睨みつけたところでどうにかなるものではないのは分かっているが気迫の問題だ。
それに対してそいつは相変わらずの無表情を変えない。
数秒後、動きがあった。だがそれは俺に対する死のチケットではなかった。何を思ったのか、どちらかと言うと何かに感ずいたように別の方を見つめる。

「どうしたっていうんだ?」

俺は天使の見つめる先、俺からみて右側を見る。そこには見神がいた。

「見神・・・」

『逃げろ!』と、声を出したかったが、全身の痛みと極度疲労と生命体に睨まれた硬直でその望みは叶わなかった。俺にはただ何も起こらないことを祈るだけしかなかった。

「・・・・・・・・・・・」

どのくらい経過したのだろうか、突如見神を見つめていた生命体に動きがあった。

『いよいよダメか』

そうではなかった。その生命体はなにを思ったのか突如、宙に浮かび、そしてこの場を離れていった。遠く大空の景色に紛れるがのように。

「・・・・・なんだったんだ・・・・助かった・・・・のか」

何がなんだか良くわからなかったが、ただ『助かった』という思いだけが心の中に響いた。

「よか・・・・った・・・・・・・・・・・・・・」

伸びきった緊張の糸は切れ・・・・俺は暗闇の奥底に落ちていった・・・・・・・







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







ハッ

「こ、ここは・・・・」

何処だここは?確か俺は空港で事故に巻き込まれ何かに殺されそうになってそして・・・・・・・気を失ったのか?
俺はここがどこかを確認するために瞳を動かす。
白い天井が見えた。
首を少し右にかしげる。
白いカーテンとガラスの窓が見える。
今度は左に首を傾げてみた。
扉がみえる。
起き上がってみよう。起きれるか?痛っ、体がかなりきしむが起きれないわけではなさそうだ。
俺は上半身を持ち上げてみた。持ち上げてみて初めて俺がベットに寝かされていたことに気づく

「ここは・・・ここは病院か・・・・・」

総合するにここは病院の一室らしい・・・・・おそらくそうなのだろうが頭がフラフラして思考がまともに働かない。ダメだ、まず気を落ち着けなければ。
30秒ほど上半身を持ち上げたままうつむき、気持を落ち着けた・・落ち着つけて、そして思う。

「助かったのか・・・?」

助かったのだろう・・・これが夢でなければ・・・・そういえば頼子は?見神は?・・・そう思いをめぐらせていた時

カチャリ

左手のドアノブが回転し扉が開く。

「・・・よ、頼子」

扉から入ってきたのは女性・・・俺の姉・・・上座頼子だった。

「・・・・!た、達郎!」

頼子は俺の姿を確認すると大きな声をあげて俺に駆け寄ってくる。

「目が・・・目が覚めたのね」

すでに目が潤んでる。ちょっとオーバー過ぎないか?

「もう二日も目を開けないんですもの・・・」

二日も寝ていたのか・・・

「二日かも・・・寝ていたのか・・・そんなことより頼子こそ大丈夫なのか?どこか打ったんじゃないのか?」
「ん、私は大丈夫。かすり傷だけだったみたい。後は特に問題ないそうよ」

ホッよかった。

「そんなことより・・・・お医者様は命に別状は無いっておっしゃってたけど、ちっとも起きないから心配で心配で・・・もうこのまんま起きないんじゃないかって・・・グス」

ついには泣き出してしまう。

「頼子・・・・ごめん、心配かけたみたいだな」

俺は頼子の流れ落ちる涙を親指で頬をなぞるように拭いてゆく。

「グス・・・ん〜ん、こうやって達郎の目が覚めたから・・いいの」

既に頼子の左頬に当てている俺の右手の上から自分の左手をかぶせて愛おしそうにその右手をなでる。

トクン

俺の心臓が高鳴る。急に頼子が『欲しい』と思う。理性が効かなくなる。

「頼子・・・・」

頼子のそのまだ涙の残る潤んだ瞳を見つめながら俺は頼子の名を呼ぶ。その言葉に頼子を求める言霊を乗せて。

「達郎?・・・・ん・・・」

理解したのか、頼子はそっと瞳を閉じると俺のほうに顔を寄せてくる。
空港では未遂に終わったが今度こそ・・・




「あ、たつろーーーーー!」




突然ドアの方から大きな声がする。
ビクっとした俺と頼子はとっさに離れてしまった。

「たつろー!目が覚めたんだね!」

声の主は、またもや見神だった・・・ったくこのラブコメ体質めが!
などと思ってるとその見神はこっちに突っ込んでくる・・・おいおい、まさか。

グワシ!

案の定こいつは俺の体を両の手で思いっきり抱きしめてきた。

「たつろー!たつろー!心配したんだよぉ〜」

体中が悲鳴をあげる。た、助けてくれ・・・

「み、見神・・・・し、死ぬ」
「え?あ!ご、ごめんなさ〜い」

自分のやっていることを理解したのかみかんは慌てて離れる。

「ゲホゲホ、おまえ・・俺を殺す気か?」
「ふぇ〜ん、部屋に入ったらたつろー起きてたから嬉しくってつい・・・」
「ほぉ〜、その割にはとどめ入ってたぞ」
「う〜」

シュンとしてしまうみかん。むぅ、こいつに悪気が無いのは分かっている・・・まぁしょうがないな。

「ったく・・・しょうがねぇな。オマエだって悪気があったわけじゃないしな。俺もちょっと言い過ぎたようだし・・・今度は気をつけろよ」

まぁ無理だろうけど

「ウン」

お許しの言葉を聞いてパッと表情が明るくなる。現金なやつだ。

「あ、やっと気がついたのか・・・」

奥のほうから別の声がした。女の声だ。誰だ?
すると声の主は俺のほうに向かって歩いてきた。外人?女?見たところ俺と同い年かそれより下ぐらいの印象を受ける。後ろには褐色の大男がふたり控えていた。

「あ、そうそう。紹介しなきゃね」

頼子は立ち上がるとこの一見して不信な連中を紹介した。

「この人は気を失っている私たちを病院まで連れて来てくれた。ディータ=ダークスさんと、お付のこちらがデヴィンさんとこちらがラヴリエーさん」
「はじめまして。どうぞヨロシク☆」
「あ、こちらこそはじめまして」

俺は軽く会釈をして返した。

「あんた達が俺たちを助けてくれたのか。ありがとう。」
「礼には及ばないわ、『困った時はお互い様』という言葉もあるしな。それに・・・」
「それに・・?」
「あ、いや、なんでもない。ところで体の調子はどうなんだ?」

流暢な日本語で喋るその外人・・ディータ。ちょっと喋りがなれなれしい感じがあるがきっとそういう風に日本語を覚えたのだろう。現に外人によっては関西弁や山形弁で喋る連中もいるからな。

「あぁやっぱり体の節々が痛むかな?そういえば俺の体の具合ってどんなんなんだ?頼子、医者はなんていってるんだ?」
「なんでも全身打撲らしいわ・・・」
「全身打撲・・・・骨折は無いのか?」
「無いらしいの。お医者様も不思議がっていたわ。現状からみて打撲だけじゃ絶対すまないって。全身の骨が折れていてもおかしく無いそうよ。」

そうか・・骨折はないのか・・・しかし、全身打撲の割には・・・痛みが少ないな。ま、いいか。生きているんだし。

「という訳だ。あんたらのおかげで無事に命を永らえることが出来た。本当に感謝する・・・あ、ところであんたたちは大丈夫だったのか?そういえばみかん、お前もだ。平気か?」

「え?私はだいじょーぶだよ。かすり傷だけ」

アピールする様に腕をブンブン振ってみるみかん。

「私もこいつらも居場所が良かったみたいで特にこれといった怪我は無かったよ」

なんだ?じゃぁここの中で一番重症なのは俺かぃ。

「まぁ何にしても目が覚めてよかったよ。今日はこれからちょっと野暮用があるのでまた顔を出させてもらうことにする」
「あ、そんな気を廻さなくてもいいぜ。連絡先さえ教えてもらえればこっちから連絡するから」
「いや、気など廻してはいない。こっちの理由で見舞いに来るだけだ」
「こっちの理由?」
「ん・・・まぁそのうちわかるさ。さ、デヴィン、ラヴリエル行くぞ。達郎、じゃまた明日」

そう言うとディータは病室を出て行った。なんだ?理由っていうのは・・・

「あ、いっけな〜い。達郎が目覚ましたこと先生に言わなきゃ。達郎ちょっとわたし行って来るから」
「あ、より姉〜。私もいっしょにいく。たつろーおとなしくしてるんだよ」
「ハイハイ、いってらっしゃい。お前こそむやみにこけるなよ」
「こけないよーだ」

そう言うと頼子とみかんの二人はパタパタと病室を後にした。



「しかしいつ来てもでけぇお屋敷だよなぁ」

デヴィンが感嘆する。たしかにドイツにはこのぐらいの屋敷が無い訳ではない。しかし、ここは日本の東京なのだ。まさに『驚嘆』に値するだろう。

「感嘆するのは勝手だが・・・キョロキョロするのは止めろ。田舎モノみたいでこっちが恥ずかしい」

デヴィンの脚をどつきながら、非難をする。デヴィンは不満そうな顔をしながらもそれでも場をわきまえたのかギャアギャア騒がず大人しくなった。いつもこうならありがたいことこの上ないのだが。

「それでは私は主に会ってくるから大人しく待ってろよ」

客間入り口で私は二人に待機するよう命令する。ここでこの屋敷の『主』・・・いや『彼女』といった方が明確か・・・に会う事になっていた。
私はここの執事に促されながら客間に入った。

「お嬢様はもうじき参りますので今しばらくお待ちください」

お嬢様。これから会う『彼女』はこの屋敷の主でもある『お嬢様』だ。厳密に言うと実際の主は彼女の父親なのだが両親ともに多忙のため不在であることが多い。その為事実上、彼女が主と言っても良いだろう。

「いつも世話になるな、長瀬さん」

長瀬とは執事の苗字だ。

「いえいえ、こちらこそお嬢様がお世話になっております。紅茶を煎れますので飲んでお待ちください」

私は頷くと用意された椅子にすわり、メイドが煎れくれた紅茶を口にし彼女を待った。

待つこと5分。

「お待たせ致しました。」

長瀬さんの言葉とともに待っていた人物が入ってきた。

「ごめーん、まった?」

ラフな喋りだが声自体は凛としている。声質そのものが一般人とは明らかに異なっていた。

「まったゾ。5分も・・なんてな。久しぶり、留美子」

宇土留美子、齢17歳の美少女と呼ぶに相当するこの女性がこの館の主である。
宇土グループ、108部門の系列会社から構成される大企業体。日本の5大グループ、来栖川、朱沢、安田、三島、宇土のうちの1グループ。その全てを統べる宇土平八郎(仮名)の愛娘がこの留美子と言うわけである。

「ん?この隣の男性がいつも話してる白馬の王子様ダナ」

からかい気味に尋ねてみる。

「そうよ。この男(ひと)が私の未来の旦那様。呂風四四也さんよ。四四也さん紹介するわね。この娘が私がいつも話している『欧州の魔女ッ子』ことディータ=ダークス嬢よ。私のお父様が資本参加しているプロジェクトの主要メンバーの一人であり私の親友でもあるの」
「はじめまして、ミスダークス。お会いできて光栄です」

形式的な言葉であるがその瞳は歓迎を表している。ふーん、結構かっこいいじゃない。直感だけど性格もかなりよさそうだし。留美子も良い男捕まえたものね。

「よろしくミスター呂風。私のことはディータでかまわないゾ」
「じゃぁ僕のことも四四也と呼んでください」

うーん、笑顔もなかなか。などと品定めをしているとそれに気が付いたのか留美子が『コホン』と咳払いをした。あ、イカンイカン。

「さて、久しぶりに会ったばかりで何だけど。例のもの手に入ったのかい?」

別に一年ぶりの親友と再会するのが主目的ではない。さっき彼女が言っていた『プロジェクト』に関する事が今日の最大の目的だ。

「もちろん用意してきたけど・・・ハイ、これが上座達郎に関する身辺ファイルと今回のカルテ」

私は彼女が差出した約100ページほどの報告書が書かれたファイルと詳細データが入ったCD−Rを受け取る。

「サンキュ。ホントごめん、留美子はプロジェクト自体には特に関係ないのにこんなこと頼んでしまって」
「気にしない、気にしない。それに関係ないわけじゃないわよ。あれからお父様に無理言ってプロジェクトの仕事を手伝うことになったから」
「え?そうなのか?そんなこと私は一度も聞いていないぞ?」
「驚かせようと思ってね」
「あ、なるほど。それでどのセクションを担当しているんだ?」
「今の貴方のセクションと同じところ」

当然と言えば当然か。彼女の父親が資本参加している主要部が私の担当しているセクションなのだから。

「でもまだまだ勉強中。すっごい難しい上に資料が膨大すぎ」
「まぁね。あのセクションはこのプロジェクトの要のひとつだし」」
「そうみたいね。でも見れば見るほど興味深い内容よねぇ」
「ま、頑張って勉強してくれたまえ」
「ハイハイ、精進いたします・・・それにしてもびっくりしたわ・・・・まさか上座君がADAM1だっとはねぇ」

二日前、今回の件を電話で彼女に依頼したときに彼女と四四也と達郎はクラスメートと言う事を知った。
偶然と言うかなんというか・・・意外と必然だったのかもしれない

「まだ分からないさ。ちゃんと調べてみないことには彼がそうなのかは・・ただ私の見込みでは十中八九まちがいなく『彼』だな」
「あなたが言うんなら間違いないでしょ?貴方の直感と『力』の解答が達郎君だと言うんなら」
「まぁ・・ね」



コンコン



扉をたたく音がする

「長瀬?」

留美子が扉を叩いた主を問いただす

「はい、お嬢様。上座達郎さまの本日の検査結果報告が来ましたのでお持ちいたしました」
「ありがとう。こっちに持ってきて」

扉が開くと長瀬さんが分厚いカバーにファイルされた用紙をもって入ってくる。
留美子は『ありがと』と言うとそのファイルを受け取った。長瀬さん一礼するとそのまま退室した。

「ふ〜ん。ディータ、彼がADAM1じゃなかったとしてもやはり只者じゃないわ」

一通り報告書を眺めるとファイルを渡しながら留美子は感想をもらした。
私は報告書を受け取るととりあえず報告書の最後、担当医師の総合報告を読む。

つい二日前、全身打撲の所見を行いましたが、本日再検査したところ打撲傷は殆どありませんでした。誠に信じがたいことですが、この回復力は驚異的といえましょう。この回復力を見る限り明日にでも退院は可能ですが念の為にあと一週間の入院をお勧めしました。患者にはこの件に関しては一切話しておりません。身体データを取得するために二日後にもう一度検査を行いますのでお待ちください。

「ホント、すごいわね」

私は報告書を見ながらニヤリとわらった。


短い会見も終わり、今は屋敷からホテルに向かう道中の車内。
留美子がここに泊まっていくように言ったので四四也とのスウィートタイムをお邪魔しちゃ悪いだろと冷やかし半分で断ったら
『四四也とはまだ清いお付き合いなの!』
と顔を真っ赤にしながらムキになって返された。いつもは冷静沈着なお嬢様、どっちかと言うと女王様なのだが・・・今回はいろいろ面白いものが見れて楽しい。
結局、『それならうちのグループのホテルをリザーブするから滞在中はそこを使って』と半ば強引に勧められた。断る理由もないのでありがたく使わせていただくことにした。

「さて、」

私は早速達郎に関するレポートを開く。


本名:上座達郎(うえざたつろう)
年齢:17歳
国籍:日本
家族構成:父(上座○○)
     母(上座△△)
     姉(上座頼子)
※ただし、父母姉とは血のつながりは無く養子である。

なるほど・・・姉弟と言っても血のつながりが無いわけだ。空港で見かけたヤバゲなシーンもこれで納得がいく。いや別に見たくて見たわけじゃないぞ。目に入ってしまったんだ。

・・・そうなると達郎の本当の親はどうなったんだ?

私はページを捲ってそれに関する資料を探す。・・・・・あった。

上座達郎の実の父親、母親は達郎が生まれてまもなく事故で死亡している。
死亡調書には「事故死」とされているが母親の家系が御名に連なる家系でその日なにかの術式を行ったという報告もされている。この件に関してはさらなる調査が必要と思われる。

ほー、面白いな。

上座達郎の実父と義父は大学時代よりの親友であり実父の遺言により達郎は上座家に引き取られている。

遺言?・・・・死期が近いと言うことが分かってたというのか?
なかなか興味深い資料だな。
そこまで読むとパタンと資料を閉じる。どうやらホテルに到着したみたいだ。

それからの一週間私は毎日のように達郎の所に見舞いに行った。お供の二人はいるといろいろ目立つので連れて来ていない。
初めはADAM1かどうか見極めるためだけの接触だったが、こいつと話しているとなかなか面白い。
生徒会長をやっていると言うデータをみたので意外と優等生なのか?と思ったがそういうわけではなく彼のカリスマ性のなせる技のようだ。
人間に限らずある程度知性を持った生物はその個体の持つオーラ、もしくは神格を無意識に感じそれによって上下関係を形成していく。たまに例外も存在するがほぼオーラの質、量が社会を形成していく基本要素と言えよう。「己を磨く」「心の鍛錬」などはまさに潜在化したオーラを表面化させるものである。
そしてこういったオーラの高い人間を俗に「カリスマ性」があるというのだ。
達郎の場合はそのオーラがずば抜けて高い。空港で検出された尋常あらざる数値がそれを証明しているが彼と接しているとそれが良く分かる。

性格もサバサバしてるのかと思えば妙に熱っぽかったり、からかうとすぐに反応したり、なかなか笑わせてくれる。

この間も頼子が『ちょっと』といって外に出たときのこと

「達郎、そういえば頼子とはどこまでいってるんだ?」

お見舞いのミカンでお手玉しながら(※良い子はマネしてはいけません)ふと聞いてみた。

「どこまでってなんだよ?」
「だからやったかどうかって聞いてんの」
!#$%&#$=!!!!!!お、お、俺達姉弟だぞ!んなことあるわけ・・」
「姉弟っていったって。義理だろどーせ?」

資料を見ているので既知情報なのだがすっとぼけてみる

「!!!!!ど、どこでそれを・・・て、てんめぇ調べやがったな」
「違うわよ。空港で見かけたとき、キスしようとしてたでしょ。初め恋人通しかと思ったゾ。んでカマかけてみたわけ」

あくまですっとぼけ。

「・・・・・み、見てたのか?」

明らかに狼狽の色を見せる

「見た見た♪ついでに言えばこの間もここでしようとしてたのも見てた」

今度は『ゲッ』と言う顔をする。マンガかお前わ。

「で、どこまでいってんの?」
「・・・・・いや、じつは・・・まだ・・・」

いきなり白状をしだす。いやぁ実に面白いやつだ。

「まだぁ〜?」
「いや・・・頼子が俺の事どう思ってんのかよくわかんねぇし。この間も勢いっつーか・・・」

変なところで純な奴をからかうのは至極楽しい。それにアタシの事を「クソガキ(1歳も歳差ねぇだろ)」やら「オトコオンナ」やら「胸なし」やら散々に言ったからな。お礼は返せるときに返しておかねば。
その後、頼子が戻ってくるまで聞きもしないことをベラベラ喋っていたがその話はまたの機会に出来たらしよう。

ん?話がだいぶそれてしまったな・・・とまぁ達郎とはこの一週間ですっかり意気投合(?)してしまい、退院するまでにはすっかりダチになっていた。
ん〜本当はこんなに仲良くなっちゃいけなかったんだが・・・・・

そして1999年1月31日の朝、上座達郎退院が退院した。
私はある思いを胸に病院に向かった。

「これでやっと自由の身だな。ディータ、お前が来てくれたおかげでひまがつぶせたぜ。」

ロビーで腕をぐるぐる回しながら達郎は私に礼を言う。

「ホントは頼子といちゃつけなくて疎ましく思ってたんだろ?」
「う・・んなわけねぇだろ!人がせっかく礼を言っているんだから素直に取れよ・・・・ったく」

ここ一週間ですっかり定着した会話をしていると奥のほうから見慣れた娘がダッシュしてくる。

「たつろー、でぃーた〜」

あ、見神だ。ヤバイな。ぜったいやるな。よけとこよけとこ。

ステ〜ン

あ、やった。ありゃー転んだ拍子に背中に背負ってたバックで達郎殴ってるよ。

「いつもいつもいつもいつもいつもいつも・・・・・・・・・・・いいかげん学習しろー!」

どつかれた頭をさすりながら達郎がどなりつけシュンとした姿で平謝りをする見神。
私がこの3人と知り合ってから一週間あまりだがこの光景は毎日欠かさずみる。既に生活儀式のひとつのようだ。

「ったく・・・あ、頼子。手続き終わったのか?」

カウンターで退院手続きをした頼子がこちらに来る。

「ん。終わり。さて・・これからどうする?」

頼子は私を含めた3人の顔を見ながらこれからどうするかたずねる。

やっぱりやめとこうか・・・・

少しアタシは躊躇したが数秒後、意を決し口を開く。

「頼子、見神。悪いんだけど・・・・今日一日達郎を貸してくれないか?」

そう彼に『アレ』を見せなければ・・・もう時間は無いのだから


カウントダウンは止まらない。望む、望まないは関係なく。ならば急ぐしかないのか?「ZERO」という時を刻むその前に事を成しえるために


Writing finish 2000/5/20