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この全ては何時から始まっていたものなの?今日?昨日?生まれた時?それとも生まれるずっと前?未来は自分で切り開くものなの?それとも全て決まっているものなの?生も死も初めから決められたものなの?それとも・・・・・・・・・・・・・・・・ 「・・・・・・」 場は無言に支配されていた。 ここは車の中。車にあまり興味の無い俺はこれが何の車なのか分からないがいわゆる『高級車』であることは車内の内装の豪華さと車とは思えないほどの広々とした室内から伺える。 隣にはディータが座っていた。マシンガンのように良く喋る彼女だが今は沈黙を守り窓の外を眺めている。 「何処に連れて行こうって言うんだよ」 俺は無言のディータに向かって先ほどから考えていた一つの問いを口に出す。 「私の職場」 俺のほうを振り向いたディータの表情はいつもと違うピリピリとした雰囲気を漂わせていた。その表情は俺を一人誘ったあの時と同じ表情をしていた。 第3話
カコトミライ 「ハ?いきなり何言ってんだよ、オマエ」 俺はディータの突然の提案に驚いた。頼子も見神もあまりにも不意の事に唖然とする。 「私も今の今まで迷っていた。確かに退院早々非常識なのは百も承知だ。だが、どうしても今日、これから、達郎には付き合ってほしい所があるんだ。」 そう語るディータの表情は真剣だった。 「頼子、見神、夜までには達郎は必ず返すから・・・・」 「私達も一緒・・・と言うわけには・・・いかないのね」 「すまん・・・これは達郎だけに・・・いずれは頼子たちにも話すが・・・今は・・・」 「・・・・・・・・」 頼子はその言葉に何かハッとした表情を一瞬見せた。 何かを考えるかのようにし目線を右にそらせし・・・・・そして、 「分かった。何かとても大切の事のようだしね。それじゃぁ夜までに退院パーティの用意しとくから、用が終わったらディータも一緒にきてよね。見神もそれでいいよね」 笑顔で答える頼子。 「ん・・私もいいよそれで」 「すまない・・・それじゃ達郎は借りていく」 おいおい 「俺の意見は無しか?当事者の俺を無視して話を完結させんなよ」 俺の非難に対して頼子は速攻で切り替えした 「私達はディータに助けられたのよ?あんたにYes,Noを言う権利は無いの。UnderStand?分かったらさっさと行く行く」 ぐ・・・・ 「と、言う事だ。助けた云々を傘にする気は甚だ無いんだが、達郎にはどうしても付き会って貰いたいところがあるんだ」 本当にすまなそうな表情のディータ。んな表情するなよ。 「わ、分かったよ。頼子の言う通りオマエには借りがあるしな。じゃぁ頼子、見神。ちょっといってくら」 「ん・・行ってらっしゃい」 ・ ・ ・ ・ 「付いたゾ」 空港から1時間半程経過した所で今日の目的地に付いたようだ。ここはどこだろうか? 「ここは何処だ?」 「私が所属している組織の一施設」 「オマエの組織と俺と何か関係があるのか?」 「ま、それは後で話すからとりあえずこっちに来てくれ」 車を降り俺はディータの後ろに引っ付いていく。見た感じ何かの研究室のようだった。如何にも『施設』的なその作りは誰が見てもそう感じるだろう。 「オマエ、研究員か何かなん?」 長い渡り廊下を歩きながらディータにたずねる。 「ん?そんなようなもんだ。まぁ私の正体も時期に分かるさ」 先行しているディータは振り向く事も無く粗雑に答える。 ウィーン いくつかの廊下とエレベータを経由してとある部屋にたどり着いた。そこには100インチはゆうにある薄型のディスプレイが数枚と部屋一杯に設置された何かの操作端末で埋め尽くされていた。 「お帰りなさいディータさま」 そこには病院で見た従者の二人も見受けられた。 「お、只今。さて、達郎。ここが今日の目的地である『人工進化研究所』のメインルームだ」 やっと俺のほうを振り向いたディータは右腕を腰に左腕をディスプレイ側にかかげ語りだした。 「今日達郎に来てもらったのは只一つ、これから起きる『現実』を理解してもらい、そして私達に協力してもらう事だ」 いきなり訳のわからない事を言い出すディータ。そもそもなんだよ『人工進化研究所』ってのは 「『お前何いきなり言い出してんの?』って言う顔してるな。ま、普通はそういう反応するわな。まぁいい。時に達郎、この間の事故の真相を知りたくは無いか?」 は?どういうことだ? 「おぃ、ディータ。いきなり何を言い出すかと思えば。あれはまだ断定だが制御系トラブルによる人為的事故だったんじゃないのか?」 「それは情報操作。事実は違う」 「違う?」 「そう、これは『人為的』事故じゃない。『超現象による非故意的』事故だったんだよ」 ?????? 「何言ってんだ?って顔だな。この飛行機事故はな、機械的でも人為的でもない。ましてや自然現象によるものでもない、この世界以外のものによって引き起こされたということだ」 「は?言っている意味がよくわからねぇぞ。もっと分かりやすく言え」 「じゃぁ・・・・あの日、事故直前にお前は翼の生えた人を見かげたはず、どうだ?」 「翼の生えた人?・・・・・あ!」 確かに・・・意識の朦朧とする中おれは翼のある『なにか』を見た。あれは幻じゃなかったのか。 「思い出したようだな。今回の事故はその『翼の生えたもの』によって引き起こされたものなのだ」 「??????言っている事がやはり分からん。その翼の生えたものってなんなんだ?」 「天使。少なくとも地球上ではそう呼ばれている生命体だ」 な・・・。おれは唖然とした、そりゃそうだろう。普通『天使は実在する』と言われて『はいそうですか』と納得する奴がどのくらいいるか。そもそも話が飛躍しすぎている。 「お前、何冗談を・・・」 「それが冗談では無いのよ。上座君」 ふと別の声が間に入ってくる。あ、お前は! 「宇土・・・留美子?なんで・・・」 「なんでお前がここにいるんだ?って顔ね。いいわ教えてあげるわ、私はこの研究所で行われているプロジェクト『D』のスタッフの一人。そして彼女、ディータタークスは私の親友よ☆」 そこまで聞いてねぇだろう・・・といつもなら突っ込みいれるとこだが、あまりにもの急展開に俺の頭は完全にパニくっていた 「そして貴方はこのプロジェクト『D』の要である『ADAM1』なのよ」 なにか言っているようだが俺の頭の中はパンクしていて聞こえていない。 「ふぅ・・・留美子、お前がいきなりチャチャ入れるからただでさえパニ喰っているのに今やオーバーロードしているぞ」 「なによぉ。私がいけないって言うの?そもそもディータが唐突な話方するからいけないんじゃないの。せっかく助け舟出してあげたのに心外だわ」 「ちっとも助け舟になってないが留美子の言っている事ももっともだな。さて、どう話すか・・・やはり事の始まりから順をおって話していくしかないようだな。達郎、とりあえず茶を出すからそれを飲んで落ち着け・・・今度は事の始まりからきちんと順序だてて話すから」 ディータはそういうと席に座るように促した。 「あ、ああ・・」 俺は言われるがままに席に座った。 天使・・・あれがか? 俺のイメージいや一般として認知している天使とはすべてを包み込む、『やさしさ』を感させるものであるはず・・・だが俺の見た『アレ』は無表情で冷淡でまるで死神のようなイメージだ・・・まるで俺のイメージかけ離れている おれは出された茶を啜りながらディータの言った言葉に対して思惑をめぐらせていた。 そして・・・・・ 「そろそろ落ち着いたみたいだな。いいか?これから事の始まりから全て話す。達郎がそれをどう思うかは勝手だが全て事実であり受け入れるしかない事だけということは覚えておいてくれ」 そう前置きして語り出したディータの『現実』はあまりにも衝撃的なことだった・・・ ディータはシナモンティをクイと飲むと淡々と語りだした。 「達郎今の人類がこのまま行けばどうなると思う?」 「よくTVとかでやっている奴だな。殺し合いの果てに核戦争でも起こると言う感じかな?」 俺はごく一般的な解答をする。 「まぁ近いな。このままだと人類は確実に自滅のみちを歩む。これは否を見るより明らかな事だ。そしてそれに対しての解決策をとある組織が各国と国連に提案した。その組織の名はフリーメン。『秘密結社』と呼ばれて久しい世界的組織だ。昔ほどの秘密性はなくなっているがその組織力は今でも驚嘆に値する。国連はその提案をどういう経緯があったかは知らないが了承した。今から25年前、その了承は表ざたにされずに始まる」 視線を少しそらすディータ。 「そして二つのプロジェクトがスタートした。一つは『A』と呼称された。それは核に代わる『絶対的』抑止力の開発。『自己増殖』『自己進化』『自己修復』の3大理論を軸に進められた。もう一つは『D』と呼称された。そちらは人間の飛躍的進化を追及した『革新』へのアプローチ。当時の科学者達はアダムが得た『知恵の実』の他に隠されたもう一つの『実』があるのではと考えた。なぜなら人間の脳が実際に稼動しているのは20%未満に過ぎない。2000万年たった現在もこの不可侵領域が退化せずに未だ未使用のまま存在するのは何かがあると推測したからだ」 そこでディータは視線をこちらに戻す。 「達郎。マンガや絵空事に出てくる『魔法』『超能力』これはあくまでフィクションかと思うか?いや、決してそうではない。分かるか?『虫の知らせ』に代表される第6感と呼ばれる超知覚、これは一般的科学論拠で実証されてないが間違いなく現実だ。それは『D』に関連するある『力』が全てを物語っている。だが、その話はまた後ほど。先ずは先ほど話を進める。」 ディータは再びシナモンティを啜る 「『D』はこれを追求するものだった。『A』に関しては物理テクノロジーの延長上であったため時間をかけるに連れ急速に実現していった。1996年、初号機ロールアウト。そのときは子犬台のものであったが数々の知識提供と環境実験により480時間経過後のそれは象並みの大きさへ変化を遂げていた。成功だった。そして更なる改良を加えた1999年夏、今から半年前、『A』というプロジェクト名をあやかり『Ansrasax(アンスラサクス)』と名づけられた最終版は完成した。自己判断による各国への制裁行動等の抑止力効果による世界の統一を目的とし、内部に搭載され自己進化された気象コントロールマシンにより人間にとって有益な自然環境への変化を行う。まさに人類の『守護神』の完成だった。未だ北米のルート21に格納されているが数日後その姿を現すだろう」 パネルに次々に映し出される実験記録。その『A』と呼ばれるモノはB級ホラーの化け物のような容姿をしていた。一体だれのデザインなのか・・・趣味が悪いとはまさにこれの事だ。きっとかなりのマッドサイエンティスとなのだろう。 「一方『D』は困難を極めた。人間の構造そのものに対するアプローチ。DNA解読は既に10年前に終了していたが・・・マスコミ発表ではそろそろと言う事になっているが当然ダミーだ・・・終了はしていたがあまりにもブラックボックスが多すぎた。一見すると無意味に見えるそのDNAデータは必ずもうひとつの『実』を秘めている、と彼らは確信していた。しかし暗号を解くのはさらに時間を要する事になった。一人の科学者が登場するその日まで。そして2年前その日は来た。そのDNAデータはまさに『もう一つの実』の開放を封じる鎖だった。そして鎖を解き放つ鍵をその科学者は手に入れる事が出来た。解く放たれた鎖の向こうにあったものは・・・・」 ここが核心と言わんがばかりに俺のほうをジッと見据える。 「あったものは、それは・・・核をも凌駕する強力なエネルギーだった。いや、エネルギーと呼ぶにはあまりにも次元が異なっていた。私達が有史以来語り継いできた『魂』と呼ばれるものそのものだったのだ」 喋りに力こもる。熱弁に近い。 「われわれは今の今までその魂を必要最小限に封印されたまま生きてきたと言うわけだ。これだけ強力な『力』を秘めていたにもかかわらずに、だ。そして無駄と思われた未使用の脳領域はこの『力』が開放されたときの制御部だったと言うわけだ」 自分の頭を指差しながら説明を続ける。 「われわれはこれを『霊子力』と呼称し、それを開放する研究に着手した。宝の地図は見つかったがその宝を見つけることは困難を極めた。当然と言えば当然だ。そして現在、宝のおこぼれはいくつか手に入れる事は出来たが未だ宝そのものを手に入れる事は出来ていない」 そこまで話すとディータはフゥとため息をついた。 「ところでディータ。その『鍵』を見つけたのって誰なんだ?」 彼女の会話に出てきた『科学者』がふと気になった俺は尋ねてみた。 「分からないの?」 ディータ代わりに宇土留美子が俺に話し掛ける。 「分からないから聞いているんだろが。誰なんだよ、その『科学者』っていうのは。まさかディータ、お前の事とか言うマンガみたいなオチじゃないんだろ?」 「そのまさかよ」 俺のその言葉に宇土留美子は『トー然でしょ?』と言う顔つきで答える 「え”」 ウソ?という顔を多分おれはしていたのだろう。 「ウソではない。私が霊子力の発見者だ。業界では有名人なんだが、聞き覚えもないみたいだな」 今度はディータ本人が事実である事を告げた 「だってお前・・・まだ16だろ?幾らなんだって・・・なぁ」 「発見に16も50も関係ないだろ・・・と言いたいところだがこれには裏がある」 「裏?」 「実は私は一度死んでいる」 ハ? 「正確に言えば肉体が一度滅びたと言ったほうが正しいか。この16の肉体は実は二つ目の器なのだ。分かりやすく言えば前の体から作り出したクローン体だ。当然ただのクローンでは細胞劣化を引き起こしてしまうからDNA改良はしてあるがな」 以前羊だか豚だかで実験が成功したとかニュースで聞いたことあるがその現物が目の前にいるって事か? 「まだ信じられんって顔をしているな。まぁしょうがないことだが。しかし達郎これは真実だ。テクノロジーの進歩の事実とは通常社会の人間が知らないところでひっそりと加速的に進んでいる。これは空想でも虚構でもなく現実なのだ。そしてこれらはお前にこれから話す『未来の現実』を受け止めてもらうためにどうしても必要な『過去の真実』でもあるのだ。」 ・・・・・・ 「自分が今まで持っていた『常識』は捨てろ。でないとこれから話す『未来の真実』とお前に託される『役目』もお前にとって絵空事そのものになってしまう」 俺を見つめるその瞳に曇りは感じられない。 「さっきからお前が話していることは俺をあっけにさせる事ばかりだ。ふつう信じろと言うのが無理な話だ。しかし冗談や酔狂でこんな話をしているとはとても思えない・・・・それはお前の瞳とおれの直感が語っている。だから聞いてやる、懐疑心を一切持たず。しかしそれを聞いた後の俺がどう結論付けるかは・・・すまないがなんともいえない。」 そのまなざしに俺は答えを返した。 「あぁ・・今はそれでいい。まずは聞いてくれ。では続きを話そうとしようか」 「その前に一つ聞いていいか?」 「ん?何だ?」 「おまえ実際何歳なんだ?」 「レディーにそういう事を聞くんじゃないよ」 ククっと笑いながら答えると話の続き『未来の真実』を語り出した。 「これが私の関わっているプロジェクト『A』『D』の表の姿だ。つまり各政府に対する表向きのプロジェクトということだ。何故か?それはこれから話『未来の真実』があまりにも非現実的に過ぎるからだ。」 おれは頷く。たしかに、今の段階でさえ一般の尺度で見れば非現実的なのだから。 「そしてこのプロジェクトの裏の顔・・・真意といった方がいいな・・・それは、あるものに対抗しうる『兵器』を開発運用するためだ」 そこまで聞いておれは『あるもの』に気が付く。 「そう、それが先ほど話した『天使』そしてそれに対局するものたち『悪魔』なのだ」 「旧約聖書に書かれている人類最後の戦争『アルマゲドン(最終戦争)』は知っているだろう?よく小説や映画のネタに使われる単語だ。諸説には核戦争、隕石衝突、異常気象と言われているが実際はもっとも非現実的なもの『悪魔と天使の戦い』な訳だ。」 巨大なパネルにはアルマゲドンに関する情報が流れる。 「それに対抗しうるには人間に隠された『実』を探し出すのがもっとも効果的であるが約束の日に間に合うという確証が無い。そこで我々の現在持つ『力』をもっと強大にし対抗力とまだ見ぬ『実』の早期発見という二ラインから進行する事にした。それが『A』であり『D』なわけだ。そして当初の危惧どおり『D』の完成は未だ成されていない。」 ・・・・・・・ 「正直見解では『A』での対抗には限界があると踏んでいる。地上では最強の兵器には違いないがあくまでもこの世界でしかない。高次元生命体の彼らにどこまで通じるか・・・どうしても霊的兵器の『D』の存在は必要不可欠なのだ。そこで私達は一つの事を考えた『突然変異体を探しだし解析すれば・・・』。そしてすぐさま実行に移される。『D』の責任者である私もその計画に参加した。そしてギリギリ・・・見つけることが出来たのだ・・・それが」 そういいながらディータは俺を指差す。 「おまえなんだよ。達郎」 え?お、俺? 自分を指でさし、確認する。 「そう。一週間前、『お告げ』により来日し霊的容量1億5千万を有する人間・・・お前を見つけたのだ。先ほど留美子が『ADAM1』と言っていただろ?お前のようなもう一つの『実』の鍵が外れかけた突然変異体をそう呼んでいるのだ」 「で、でもよう。俺は超能力とかそういった力全然無いぞ。なんかの間違いじゃないのか?」 「いや、お前の場合完全な潜在資質だ。強力なハードがそろっているがそれを扱うためのソフトが無い状態といったほうがいいな」 「宝の持ち腐れと言う事か」 「まぁぶっちゃけた話そういうことだな。そして私達にその力を解析させて欲しいのだ。」 「つまりモルモットになれと・・・」 「・・・・・あぁ。単刀直入に言えばそうなるな・・・」 ・・・・・・そうか・・・・・・ 「お前がNOと言うのなら無理強いは出来ない・・・他の潜在者を探さねばならない・・・でも達郎、先ほども言ったが時間が無いのだ・・・確かにかなり危険な事ではある・・・しかしお前にしか出来ない事なのだ・・・」 苦悶の表情で語るディータ。 「・・・ディータ・・・」 「ん?なんだ?」 「この施設はその『D』に関する研究の施設なのか?」 「あぁそうだ。ここが『D』に関する研究の殆どを担っている」 「そうか・・・ディータ、この施設を案内してもらえないか?」 「あ・・それは良いがなぜ?」 「お前が必要とするものを見極めたい。お前の進めている研究をみてそして・・・考えたい」 「そうか・・・分かったついて来い、案内する。この研究の全てを」 そして俺たちは部屋を出るために席を立った。 私は達郎と従者ズを連れて階下に下りている。 「宇土は一緒じゃなくて良いのか?」 「あぁ留美子はいい」 留美子には今回の同行はご遠慮願った。スタッフとはいえこのセクションは留美子にはまだ見せられない領域・・もう見せる機会もないだろうが。 「ここから下地下4階〜16階までの13層はスタッフとでも制限があるシークレットの領域だ。分かっていると思うが他言無用。言ったところで誰も信じはせんがな」 下階に下りるエレベータに乗っている最中に私は念を入れる 「あぁ・・分かってる」 やはり先ほどの話のこともあるのだろう、達郎の返答はそっけない。そんなものだろうな。逆にここで妙にフレンドリーの方が気味が悪い。 チン 「ん、ここは地下六階だぞ、4,5階は案内無しか?」 「先ほども言った通り13層のフロアが存在するが実際は大きく分けて3つのセクションに分かれている。4,5階も6階と同じような事をしている。そしてここでは・・・」 私は巨大なガラス張りにいくつもの広大なフロアに仕切られている部屋を指差しながら話しだす。 「いわゆる『魔術』に関する研究をしている。漫画やオカルトでしか考えられないこの分野も霊子力の基礎能力の応用で使用可能となる。いわゆる『スペル(呪文)』と呼ばれる言葉は儀式上の形式に見えるがこれは霊子力操作を行う為に有効な手段となる。日本には言葉に念を込めて相手に通じさせる『言霊』というのがあるだろう?あれは霊子力を利用したテレパス(思念会話)の事だ。言葉に『思念』を霊子力を通じて込める事によって相手に強い残留イメージを与える事が出来るわけだ。魔術はその『言霊』のように霊子力を色々な現象に変化・・・実際は誘引だな・・・させて実現させる。スペルは実際は補助的なものでしかないが唱える事により必要な指向に霊子力を誘導する。言ってみれば腹式呼吸や武芸などの型と考えてもらった方が良いかもしれない。そして、これは先ほども言った通り霊子力の『基礎』だ。この基礎がしっかりしているほど強大な『魔術』を使えるということになる。まぁま理論上的なところが多いのは否めないが。」 「つまり霊子力を操る事によって炎をだしたり出来ると言う事か?」 要点を付いてくる達郎。 「実際に霊子力が炎や氷を具現化させるわけではない。氷なら液体を固体化させる『場』を作り出すのだ。強引に言ってしまえば氷を作るためにその場に即席の冷蔵庫を霊子力の力で作り出し、あとは空気中のや周りの水分を使用して氷自体を生成すると言う事だ」 ※予断だが『召還』に関しては『ゲート』と呼ばれる亜空間接続パターンが存在しそこに霊子力という媒体を使用する事によりゲート結合を誘発する。まぁ言ってみればICの基盤配列に信号を流して動作せるみたいなもんである。 「言っている事が今ひとつ分からん」 「かもな。そこで論より証拠、実際に見せてやろう。すまないが誰かファイアーの術式を行使してもらえるか?それと『見える』ように部屋を暗くしてくれ」 マイクでガラスの向こうの部屋にいる人間に実技を要求する。 そのうちの一人が応えるように左手を挙げる。部屋を暗くすると術式を開始した。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 両の手を重ね手のひらを前に突き出し小さくスペルを唱える。 しばらくすると術者の周りから青い光が浮かび上がってきた。 「あの光ってるものは何だ?」 達郎は指差しながら驚いた様子で尋ねてくる。 「あれが『霊子力』だ。一般には『オーラ』や『気』とも呼ぶ。よく見てみろ、青い光が両の手に向かって流れているだろう。あれが『スペル』による霊子力の制御だ。そろそろ出るぞ」 私は手のひらの先を見るように達郎を促す。 「手の先がゆがんで見えるだろう?あれはボール大の別空間の壁、分かりやすく言えば見えない中が空洞の球だな・・・それを作り出し、その中に大量の酸素を凝縮させている。あとは・・・」 瞬間、一瞬光ったかと思うとそこには赤く光った火の玉が発生した。 「外界の空気中にあるプラズマを発火元に内部と連結してやればいいわけだ」 そこで部屋が明るくなりマジックショーにも思える実験は終了した。 「分かったか?アレが霊子力の力だ。先ほども言ったように物質そのものを生成できるいう代物ではない。だが『指向性』を持たせる事の出来る生きたエネルギーだ」 私の言葉に応えはしなかったものの真剣なまなざしで先ほどの部屋を見ていた。 ・ ・ ・ チン 私達はさらに下のフロアに向かった。先ほどのただ広いだけのフロアとは違いいろいろな道具や機器が置かれている 「ここは?」 「ここは霊子力を操るのを補助する為の道具の開発を行っている。開発自体はアメリカの方でここではテストやデータ収集を行っているところになる。先ほど魔術を使っていた人間がグローブをつけていただろう。あれもアイテムの一つだ、術者の波を読み取って霊子力を効率よく運用するために波の補正を行うアイテムだ。まだデータが足りないので効率が悪いがあれがあるとないとでは魔術行使の成功率が全然違ってくる」 ぱっと見は五指が剥き出しの黒の皮グローブにしか見えないそのアイテムを手にとりながら「この中にそれを行使するパターンが練りこまれている」と達郎に説明する。 「なるほど」 と達郎は関心があるのか無いのか分からないような返事をして返すだけだったが、その言葉とは裏腹にそこに置かれているさまざまな道具を触っていた。 「なんだこの指輪?」 どこぞの髪をおったててキーの高い歌でも歌いそうな兄ちゃんがつけそうな不気味なデザインを施したリングを私に見せる。 「達郎はこういうのに興味があるのか?」 「ん・・まぁな」 頭をポリポリさせながら適当な返事を返す。 「ん〜なんだろうな。私もここにあるものを全て把握しているわけではないから・・・コンデンサーみたいなものか・・・」 「どういうことだ?」 「エネルギーの貯蔵庫みたいなものだ。ここに霊子力を圧縮保存するのが目的なんだろう」 「使えるのか?」 「さぁな・・・なにせここにあるものの殆どが試作品だ。これも何処まで使い物になるのやら」 『ふ〜ん』と分かったようなことを言いながら達郎はその指輪を元に戻した。よく見ると隣に似たような趣味の悪いデザインの大槌と鎧が飾ってある。 なーんか、あいつが作ったシロモンくさいな。あんな悪趣味なものを作るのはあいつぐらいだろうからな。 「ここでも何か見せられれば良いんだがあいにくスタッフが不在らしいからな。またいずれその辺りはご披露しよう。では最後のフロアに行くとするか」 まだものめずらしそうに見ていた達郎を呼びとめ私達はさらに下のフロアに向かった。 フフ・・シリアスな状況にも掛からずあぁ言う事ころは子供的な達郎をみて私は薄く微笑んだ。そして思う、やはり達郎は達郎だな・・・と チン 「このセクションは猿などを使用した生物実験を行っている。理論を実践する場所だ。」 そこには部屋一杯に極太のシリンダーが整然と並べられその中には多くの動物がホルマリン漬けになって入っている。 「このシリンダーに入っている動物はDNA書き換えを行った生物の慣れの果てだ。見ろ、何万とある螺旋内のデータをほんの少し入れ替えるだけで生物はここまで変化してしまう」 私が指差したその先には地球上の何処をさがしてもまず存在しないであろうグロテスクなモノがいくつも並べられていた。 「・・・・・・・・・・・・・」 達郎は愕然のあまりだろうか、言葉が出ない様子だった。 「なぜこんなものをいくつも並べいるのか?別に悪趣味でこんな事をやっているわけではない・・・これは私達が積み重ねてきた『罪』の証だ。私達は明らかに神に対する『冒涜』を行っている。実際天使と対立しようとしているのだからいまさら神もなにも無いのだがそれでも私達はこれにたいする『罰』は受けなければならない・・・ここはその為の『罪の記憶』なのだ。」 私は何本も不規則に節足脚が生えている馬だったと思われるホルマリン漬けのシリンダーを愛でるように摩りながら。低く呟やいた。 「ディータ。おれもこんな風になる可能性があるのか?」 こちらの方は見ず数々の標本を見ながら達郎は自分の未来の可能性を私に問う。 「いや、達郎に手伝ってもらいたいのはこんな初期段階のものではない。ただ、その姿を失う可能性は・・・・ある」 しばらくの沈黙。ふいに達郎は私の方を振り向く。 「俺は何をすればいい?」 「お前は・・達郎には私達が用意する『力』にお前の霊子力を注いで欲しい。いや注ぐのは無いな・・・お前の魂をその『力』を移して欲しいのだ」 「それは、どういうことだ?」 「先ほど私は言ったな。『まだ宝は発見できていない』そして『もう時間が無い』と」 「あぁ」 「私達は普通の人体の『実』を開放するすることは未だ出来ていなかった・・・が、すでに開放済みの『器』を作る事には成功している。後はその器に酒を注ぐだけだ」 「つまり俺に『酒』になれと」 「そういうことだ」 「『俺』に『俺』を捨てろと言う事だな?」 「それは厳密には違う。達郎と言う器を一時的に抜け私達が用意した器に入ってもらうと言う事だ」 「元に戻れる保証は?」 「シミュレーション上では戻れる・・・が保証は無い。これが『姿を失う可能性がある』と言った意味だ」 「これに俺が協力する事によって何を得る?」 「実が開放できないと言うならば移すしかあるまい。その為の実験だ。そしてもう一つ、強力な霊子力を有した強力な戦闘力の獲得だ」 「もう一つ聞く。なぜ『俺』じゃないといけない?」 「強力な霊子力の持ち主で無いと実験の負荷に耐えられない。完成させた『器』はあくまでもプロトタイプだ。実験体には多くのデータ取得に耐えられるだけの霊子力の持ち主が必要不可欠だ。そして・・」 そこで私は言うのを躊躇った。これを言ったら達郎は協力を断るだろう、確実に・・・それに必ずしもその状況になるとは限らないからな。 「?」 「いや、何でもない。これがお前に協力を要請する理由の全てだ。達郎・・・どうする?」 「・・・・・・今はとても即答できない。あまりにも話が突拍子過ぎるし深刻なものだ。アレだけのものを見せられても今ひとつ実感が湧かないし、あぁいうものを見せられて多少なりとも腰が引けている・・・実際。普通なら断るだろうな」 「そうだな・・・」 それでも考えてくれると言ってくれる達郎には感謝しても感謝し足りない。 「ディータこれで案内は全て終わりか?」 「あぁ・・・ただ一人だけ達郎に紹介したい人間がいる。『D』のもう一人の責任者。私のパートナーと呼べる人間だ」 「そいつはどこにいるんだ?」 「この奥の部屋だ。付いてきてくれ」 私はそういうと達郎を連れて奥の部屋に向かった。 コンコン 「どうぞ」 低い声が返ってくる。 「男か?」 「そう。ちょっと変わり者だが有能なサイエンティスとだ。入るぞ」 ウィーン。 タッチ式の自動ドアの扉が開き私達は部屋の中に入る。そこには私には見知った大男が研究着を羽織って立っていた。 「こんにちわ、ディータ=タークス、そして・・・この少年ですかあなたの言っていたADAMとは」 声の主は興味深そうに達郎を見据える。 「そうだ、彼の名は上座達郎。達郎、紹介する。彼がアビゲイル、私のパートナーだ」 オードブルは整った・・・さぁメインディッシュに備えワインの一杯でも飲もうではないか。 そう歴史の奔流というなの極上のメインディッシュを味あう前に Writing finish 2000/06/11 |