7 ▲BACK

アナタはなにをしたいの?あなたは何を求めるの?あなたはなにを愛し、なにを憎み、そして・・なにを・・・・。
私はあなた・・・ただあなたが欲しいだけ・・・



「はじめまして、上座達郎」

アビゲイルと名乗る大男は私に話し掛けてきた。

「はじめまして、アビゲイル・・・博士」
「上座達郎、博士などは付ける必要はありません。『アビちゃん』と呼んでください」

は?アビちゃん?

「アビゲイル、初対面相手に気味悪い事言ってるんじゃない。達郎すまないな、根は良い奴なんだがちょっと変わり者なんでな」

ディータがフォローを入れる。

「変わり者とは心外ですね。『おちゃめ』と言って貰いましょうか、ディータ=ダークス」
「お前のそれはお茶目のつもりかも知れないが、傍から見たら『怪人の戯言』にしか聞こえないんだ。それに私の事をフルネームで呼ぶなと言っているだろうが」
「それは貴女が私の事を『アビちゃん』と呼んでくれないからです。フルネームで呼んで欲しくなかったら愛情を込めて『アビちゃん』と呼んでください。」
「それだけは何があろうと断る。大体何が悲しくて愛情込めてなんでそんな事をいなければならないんだ」

俺の目の前で傍目16歳の少女と謎の怪人が漫才を繰り広げる結果となった。
いつもこんな事やってるんか?こいつら。

「ゴホン・・・こんな水掛け論をしにお前のところに来た訳ではなかったな。」

しらけている俺に気が付いたのかディータは漫才を中断する。

「それにしても・・・なかなか良い趣味の部屋だな」

白い壁にはなにやら奇妙なカタチのオブジェや絵が飾られている。少なくとも『普通の』部屋とは言い難い。逆に近寄りがたい雰囲気をかもし出している。

「分かりますか。流石はADAMですね。賛同者を得て私は嬉しい限りです」
「え?あぁそう・・」

当然逆の意味で言ったのだがこのアビゲイルと言う男は真に受けたらしい。

「これを見てください、H.R.ギーガのオリジナルです。この有機質と無機質の見事な融合。私の目指す進化の一つですね」

うっとりとした表情(?)で力説しだすアビゲイル。余計な事を言うもんじゃないと反省したがもう遅い。それから30分、永遠と語られてしまうことになる。

「ふぅ〜、ちょっと話が長くなりました。この続きはいずれまた」
「・・・・」

俺は乾いた笑いで返すしかなかった。

「アビゲイル。気が済んだか?そろそろこちらの話を達郎にしたいのだが」

いつもの事なのだろう、ディータはあきれ顔をしながら慣れた口調でアビゲイルに話し掛ける。

「あぁすみません。またいつもの癖が出てしまいましたね。私の方は一段落したので、ディータ=ダークス、貴女の話をどうぞ」
「そうか。それでは私の話をするとしようか。達郎、私は『D』に関するプロジェクトでエレクトリックテクノロジー(電子工学)に関するパートをうけている。『霊子力』と言うのはその性質上一見バイオテクノロジー(生物工学)の分野という印象が強いが霊子力というその特徴を見る限りむしろ電子工学に近くなる。それは先ほど見せた魔法しかり道具しかりだ。言っている事わかるか?」
「いや、さっぱり」

おれは素直に応える。まぁ普通に生きている限りこんな分野に携わる事は無いだろうし、そもそもつさっき聞いたばっかりのものを理解しろと言うのに無理がある。

「まぁそうだろうな。ここにある多くが一般社会において非常識の事象だ。理解しろとは言わないさ。ただ一応私達の役割とポジションは聞いといてくれ」

ディータは俺の回答は先刻承知、あくまで確認のための質問だったようだ。

「そしてアビゲイルはバイオテクノロジーを担当している。いくらエレクトリックテクノロジー的な研究とはいえ生体が関わっている以上、あくまで主軸はバイオテクノロジーの分野だからな。このフロアにある数々の実験の結果は全て彼によるものだ」
「どうでしたか?私の作品の成果の数々は」

どうやらかなりのマッドサイエンティスとのようだ。生命に対する価値観が俺達とはかなり異なっているらしい。

・・・・やはりこういう奴は寒気がする・・・・

声には出さなかったが心の中でそう呟いた。

「ん〜答えがありませんね。まぁ大方マッドサイエンティストの狂った戯言とでも思ってらっしゃるのでしょう」

驚いた事に自分の癖を第三者的観点から正確に把握しているらしい。しかしそれなら尚更分かっていながらのあの発言、タチが悪いと言える。

「理解して欲しいとはとは言うつもりは毛頭ありませんが、私達のような科学者が現在の社会を形成してきたと言う事はお忘れないよう」

彼の言っている事は至極正論ではある。が、だからと言ってその過程を『作品』と言う辺りのセンスは俺には理解はできない。それとも科学者と言うものはそういった凡人とは一歩異なったセンスの持ち主のみが得られるものなのだろうか。しかしディータは彼の言う『作品』を贖罪の象徴とも言っていた・・・あれは多くのもの達の共通のなにかではないのだろうか。

「言っている事は分からないでもないがそれを・・・」

カシャーン

俺が感情的に反論しようとしたその時、部屋の外から何か割れるような音が鳴る。

「む。シリンダーガラスが割れたようですね。しかし何故。あれは防弾用に使われている特殊ガラスのはずなのですが」

アビゲイルはそう言いながら、先頭を切って部屋の外に出た。

「ハッ!あ・・・あれは」

外に出たと思った次の瞬間、彼は驚嘆の声をあげる。

「何があったんだ?」

俺とディーダもアビゲイルに続いて部屋の外に出る。

「な・・・・なんだ、あれは?」

俺の目の前には割れたシリンダーから落ち出たいくつもの実験動物の死骸が転がっている様が見えた。いや、それだけではなかった。その死骸から何か這い出るように別の『何か』の姿が確認できた。

「こ、これは一体・・・・・む、あれは」

アビゲイルが何かを発見したらしい。

「どうしたアビゲイル」
「はい、ディータ=タークス。割れたシリンダーの廻りを見てください」

俺とディータはアビゲイルの指差す方に目を移す。割れたシリンダーの廻り・・そこにはシリンダーを囲むように円陣状の模様が描かれている。

「あ、あれは・・・魔法陣」
「そうですディータ=タークス。あの独特のルーン文字で形成された円陣模様は召還魔法陣です。きっと上座達郎・・・ADAMに感応して彼の霊子力とサンプルの肉体そのものを『贄』とし発動するよう細工が施されていたのでしょう」
「一体誰が・・・・」
「こんな事が出来るのは・・・いえ、ディータ=タークス。今はそのような論議をしているときではありません。出てきます」

アビゲイルの言葉通り、『贄』となったその死骸から『召還』された何かが完全に実態を表した。

「あれは!」

その姿に俺は見覚えがあった。一見人と見紛えるその姿、体温の感じられ無いその瞳、そして巨大な白い翼・・・・・そう、こいつは空港でみた・・・・

「く・・・・天使・・・・か」

ディータは俺の導き出した解答が正であると返答するかのように呟いた。
そう、あの姿は紛れも無く『天使』そのものであった。


第4話
チカラ


「ぬぅ。天使ですか・・・それにしても予想外ですねぇ」

アビゲイルは不可思議な言葉を漏らす。私はその言葉の奥になにか意味があるのかと一瞬考えたが、すぐに止める。今はそんな事を考えている余裕は無い。

「1,2,3,4体か・・・」

召還された石膏のような物体、天使は全部で4体。実際はもう一体いるのだが召還に失敗したのかマテリアルフィールド(物質世界)に出てこれずもがいている。

「こいつらがこの間の事件の原因か!」

達郎は怒鳴るように私に真意を問う。

「このもの達ではないだろうが、間違いなくこの間の事件は天使の仕業だ。」
「・・そうか。ならこの間の借りを利子つけて返さなきゃいけねぇな」

お、おい。素手でこいつらと殺りあうつもりなのか?

「達郎やめろ。まともにやってはこいつらには勝てん!」
「うるせぇ!こういうことはキッチリ落とし前をつけなけりゃ腹の虫が納まらねぇんだ!」

そう言い放つと達郎は天使に向かって突っ込んでいく。いくらADAMとはいえ、今はまだ只の人間と一緒だ。

ガシュ!

達郎の右ストレートが天使の一体に入る。が、天使はまったく効いた風はない。

「今畜生!これでどうだ!」

達郎はめげずに何発もこぶしを繰り出す。だがまったくの無駄な行為、悪戯に体力を消耗するだけだった。
自分を殴りつける達郎のその姿をしばらく黙ってみていた天使はそれに飽きたのだろうか、突如極端に長い右腕を達郎をなぎ払うように叩きつける。

「達郎!危ない!」

私の声はまったく遅く、すでに達郎は宙に浮いていた。幸いにも咄嗟に両手で攻撃をブロックしたらしく直撃は避けたらしい。
3,4メートルほど向こうに突き飛ばされた達郎は尻から着地する。

「イテテテテテテ・・・」

思ったほどのダメージは無かったらしくすぐに立ち上がる達郎。私とアビゲイルは達郎の方に駆け寄った。

「大丈夫か?」
「あ、ああ。それにしても硬ってぇ体だな」
「当たり前だ!罷りなりにも神の尖兵だぞ。人間の物理攻撃なぞまともに効く訳ないだろうが」
「そうか。この間の奴と違って威圧感がねぇから何とかなると思ったんだが」
「この間の奴は多分かなり上位の天使なのだろう。お前が威圧感をさほど感じないのは天使の中でも最下位クラスの『Angel』のせいだ」
「だが最低クラスの奴相手にこれだ。なんとかなるのか?」
「今のままじゃ駄目だ。とにかく今は逃げの一手、私について来い。アビゲイル!」
「何でしょう、ディータ=ダークス」
「達郎を連れて上に行く。デヴィンとラブリエーを貸すからお前の使い魔と一緒にしばらく天使の相手をしていてくれ」
「相変わらず人使いの荒い人ですねぇ。まぁこれは貸しという事にしておきましょう」
「・・・なにが『貸し』だか・・・まぁいい、ラブリエー、デヴィン、しばらくの間でいい、頼むぞ」

いつのまにか動物の姿になり私の周りに引っ付いていた使い魔二人は人間の姿になる。

「分かりました、ご主人様」
「後で上手いもの食わせろよ」

そう言うと彼らはさらに変化を見せる。デヴィンは黒い巨鳥にラヴリエーは熊を思わせる半人半獣に。

彼らは俗に言う「魔族」にあたる異次元生命体。通常の魔族と異なるのは人間のテクノロジーにより下僕としての『契約』を交わされた事。彼らは私の霊子力を糧にする事により生存を許されるモノタチ。私の死は彼らの死を意味する。

「じゃ、任せた。付いて来い達郎」
「あ、ああ」

私は達郎を後ろに連れエレベータに向けて走り抜ける。多分あいつら(天使)の目的は達郎一人のはずだ、適当に時間稼ぎさえする分には彼らが殺される事はあるまい。
案の定あくまで私達を追跡しようとしデヴィン達はあまり相手にしようとしていない。

「追って来るぞ」
「当然だ。お前を狙っているからな」

エレベータまであと10M・・・5M・・・3M・・・よし!
スイッチを押し扉を開く。

「乗れ!達郎」
「おお!」

私と達郎はすぐにエレベータに乗り込む。
閉まっていく扉の向こうでは私の使い魔とアビゲイルの使い魔が天使の進行を妨げている様子がみえた。

「大丈夫なのか?」

エレベータで上の階に上っていく最中、達郎は私に質問を投げかける。

「あぁ・・デヴィン達か・・・あいつらはそう簡単には死なない。人間とは作りが違うからな」
「あいつらもそうだが、アビゲイルだ」
「ああ、アビゲイルか。あれなら大丈夫だ」
「だって人間だろ?」
「まぁな」
「じゃぁ」
「大丈夫。殺したって死なないよアイツは」

普通と違うしな

チン

「さて・・ついた。達郎、デヴィン達とてそう長くは持たないはずだ。すぐにあいつらはこちらに来るぞ。こちらも急いで迎え撃つ準備をしなければ」
「おぅ分かった・・・ここは?」

エレベータから出たそこは部屋らしい部屋は殆ど無く、広い部屋が支配するフロアだった。

「開発した兵器のテストフロアだ。ここに置いてある兵器はさっき見せたものよりは使い物になる」

私はつかつかと置き場に近づくと二つのアイテムを取り出した。

「達郎、これを使え」
「これは?」
「腕輪状のこれは銘は知らないが一種のシールドの役目を果たす。嵌めて手前にかざしてみろ」

腕輪を手渡すと達郎は言われるままに腕輪を嵌め、手前にかざす。

「お、なんか目の前の景色が歪んでいるぞ」
「シールドが発生しているんだ。物理攻撃はこれで返せるはずだ」
「分かった」
「そしてこちらの剣の方だが・・・・」

そう言いかけた時、いやな感覚が背後を襲った。

「チッ!もうきたか」

後ろを見ると床からはえてくるかのように天使が姿を現した。

「ウォ!こいつら生えてきてるぞ!」

その姿に驚く達郎

「こいつらの肉体は私達とは存在次元が微妙に異なる。壁や床などあいつらにとって水のようなものだ」
「そうなのか・・」
「驚いている時間は無いぞ。ほら、これを受け取れ」

もう一つのアイテム・・・日本刀のような形状のもの・・・を投げる。

「日本・・・刀?」
「それも立派な対神魔用ツールだ。柄の上と下を持ってひっぱれ」
「お、おお」

達郎は言われるがままに柄の上下を持ち、下のほうを引っ張る。すると柄の表面が割れ中に封印されていたものが姿をあらわす。完全に引き出すと中から触手のようなものが現れすぐさま達郎の腕に螺旋状に絡んでくる。

「な、なんだこれは?」

戸惑う達郎。

「対神魔ツール通称『MURASAME』。やつらは私達とは存在する次元が異なっている。そして彼らが私達の次元に現れる時も微妙に次元がずれているし、奴らの存在自体の全てがこちらに来ているわけではないのだ。核とも言える本体は元の次元に固体されたままだ。私達はそれを『アストラルバディ(幽体)』と呼称している。もちろん私達が見えている体と本体は直接リンクしているから莫大なエネルギーを送り込めば倒せない事も無いが効率が悪いし通常は不可能だ。そこで霊子力を本体のある次元に共振・・・つまりはリンク・・・を行って直接アストラルバディを破壊する。これはそれを実践できるアイテムだ。」

こんな切羽詰った状況にも関わらずつい薀蓄してしまった。

「よーするに、こいつを使えばあの鳥野郎をぶったおせると言う訳だな」
「そういうことだ。ただしこのツールはかなりエネルギー効率が悪いから長時間の連続運用は厳禁だ」
「連続して使うと、どうなる?」
「霊子力の大量消費で死ぬ」
「をい!」
「と言うのは冗談だ。が、瞬間的にかなりの量を消費するからかなり体に負担がかかるのは事実だ。たとえ達郎が莫大な霊子力を有していてもそれは同じこと」
「これ本当に大丈夫か?」
「私を作ったんだ。安心して使え」
「・・・だから信用ならねぇんだよ」
「なんか言ったか?それならこれを使え」

そう言いながら私はモーニングスター(棘付棍棒)を持ち出す。

「アビゲイル作だが、使うか?」
「え・・あ、いい。これを使うわ」

右手を上げて『待った』のポーズをとりモーニングスターの受け取りを拒否する。あの怪人のアイテムを使うよりはまだましだと思ったのだろう。

「ったく・・・これでも無いよりましってことか。ヨッ!」

悪態をつきつつも達郎は戦闘体制をとった。

「ところでよ」
「なんだ?」
「俺、日本刀なんか振った事無いんだが・・・」
「なるようになる!」
「・・・・あのな・・・・」
「来るぞ!」

気が付くと天使たちは完全にフロアに姿を現していた。クソッ、さっき召還し損ねてた奴もいる。

「5匹か・・・」
「達郎!無茶はするなよ。」
「おぉまかしとけ!ってお前も手伝え!」
「ハン!レディに重労働を押し付けるとは・・・しょうが無いわね。私はこれでフォローするわ。」

と言いながらマシンガンをさらにごっつくしたような銃を取り出す。

「お、おぃ。ソレワナンダ」
「見ての通りレールガンだ。まぁ対神魔用の特注品だが」
「俺が剣でお前がなんでそんなごっつい銃なんだよ。」
「殺傷力は一緒だ。なんだ?それとも非力な一般ピープル、しかもか弱い少女に接近戦、しかも霊子力の大量消費をしろと?」
「・・・・・あぁ分かった分かった。やりゃぁぁいいんだろ。やりますやります・・・後で覚えとけ」

ブツブツ言いながら達郎は再び戦闘態勢に戻る。それにしても何だろうこの妙に緊張感の無い場は・・・目の前にいる天使とこれから命のやり取りをしなければいけないと言うこの状況でありながらまったく緊迫感が無い。

・・・楽しんでいるのか?・・・

本能的にこの天使には絶対負けないと分かっているのだろうか。
ふと、達郎の横顔を見てみる・・・・笑っている・・・やはり楽しんでいる・・・ADAMとしての資質の成せる技か・・・

「うっしゃ!いくぜぇ」

不意に達郎は切り込みにかかった。

「お、おい。いくら武器を持ったからって油断はきんも・・・」

バシュ!

「お!」

言葉を言い終わることなく目の前で起こった現実に驚きの声を上げてしまう。
無造作に振り下ろしたMURASAMEの先にいた天使がまるで包丁で切られたトマトのようにサクッと分断されたのだから。

「おお!スゲェ!よく切れるぜ、コイツ」

切った本人もあまりの切れ味に歓喜の声を上げる。

「ジョワ!」

あっけなく闇に葬られた同胞の姿をみて残りの天使たちは動揺(と思われる)の声を上げていた。

「こいつはいけるか」

その時後ろの方でエレベータの扉が開く音がする。中からはアビゲイル達の姿が確認できた。

「お、アビゲイル」
「お待たせしました。出来るだけ阻止してみましたが大丈夫でしたか?」
「あぁ、大丈夫だ。それよりアレを見てくれ」
「ん?ほほぉ、既に天使の一体を滅殺しましたか。計算上では十分予想範囲ですがやはり実際に見ると感嘆の言葉がでます」
「まぁな」
「流石・・・・あ、いえ」
「???」
「コホン。私達の手助けはいらないようですね」
「・・・そうのようだな」

私はアビゲイルの訝しげな表情を見せながら応える。アビゲイルは何を言おうとしたのだろうか?何か私の知らない何かを知っているのか?確かに私とてこのプロジェクトの全てを把握していないのは確かだ。だが先ほどから感じるこの違和感はなんだろうか?何かが先ほど・・・いや、達郎と出会ってからずっとだ・・・引っかかるものがある。

「!!!ディータ=ダークス、見てください。これはまずいかもしれません」
「まずいって、なにが・・・あ!」

天使の方に向き直ったそこには不思議なダンスをする天使たちの姿があった。

「おぃ、ディータ。あいつら急に変な踊りをはじめたぞ。なんかの儀式か?」

達郎はその異様な現場の真意を知るが為に私に質問を投げかける。

「まずい・・・達郎!早くこいつらの『舞』を止めろ」
「止めろって・・・なぜ?」
「こいつらコンバインドをかけるきだ。止めろ!でないと厄介な事になる」」

私はレールガンを構え成しつつ叫ぶ。

コンバインド。それは幾つかの単体が集合して通常より強力な力を得るための手段。これの厄介なところは単純に倍がけではなく乗数の破壊力を持ってしまう点だ。

「チッやらせるか!」

レールガンを打ち込む・・・が、既にコンバインドの影響下なのか天使の廻りに強力なフィールドが発生してしまっていて、攻撃をまったく受け付けなくなっている。
達郎もフィールドを切り裂こうとするが弾き返されてしまう。
そうしているうちに、コンバインドは完成してしまう・・・・フィールドが消えそこに現れたものは・・・

「アークエンジェルか・・・・」

そこに現れたのは明らかに威圧感が異なる別の天使が姿を現していた。





「く、最大出力で打ち込むか」

出現したアークエンジェルに対して私はレールガンを身構える。

「おやめなさいディータ=ダークス。そんな事をしたらこの施設が壊れてしまいます。それに貴女も只ではすまないですよ」
「しかし・・・」
「大丈夫ですよ、彼に任せておけば」
「大丈夫って、先ほどの雑魚のエンジェルとは違うんだぞ」
「彼は仮にも『ADAM』です。アークエンジェル『ごとき』に殺されるようでは我々の計画に役には立ちません」
「どういうことだ?第一達郎がまだ『ADAM』とは確定した訳ではないぞ」
「あー、コホン。まぁつまり彼がそうなら問題なくアレを倒せると言う事ですよ。どちらかと言うと彼が持っている刀が彼の力の負荷に耐えられるかと言う方が心配なのですが」

そう言いながら私の方をチラッと見る。ムッ

「愚問だな。そんじゃそこらのエネルギー流入ごときで壊れるようなヤワなものを作っていない」

即座に反論してしまう。この辺りは私のプライド魂が許さないらしい。

「そうでしょうね。しかし我々の求めている彼は『そんじゃそこら』では無いはずですよ」
「あ”・・・」
「まぁその辺りも心配に及ばないと思いますが。それより彼を見てください」

アビゲイルの言われるがままに達郎を見る。

「笑っている・・」

先ほどのエンジェルと対峙していた時と同様、彼の表情は余裕の笑みを浮かべていた

「た、達ろ・・・」

その表情に胸騒ぎを感じた私は呼びかけようとした。が、その行為をアビゲイルは制止する。、

「シ!静かに・・と言ってもあなたの声は聞こえないでしょうがね」
「どういうことだ?」
「分かりませんか?彼の霊位が変わったことに」
「そ、そういえば・・・」

アビゲイルが言うように達郎の霊力の質が格段に上がっている。

「アークエンジェルの霊力を受けてスイッチが切り替わったようです。ただ、これだけの霊力をいきなり彼が制御しきれるとは考えにくいです、おそらく別の『彼』に入れ替わっているのでしょう」
「別の『彼』?」
「『彼』といっても別人格が出てきていると言うわけではないです。例えるならば『本能』と言った所でしょうか。それよりも始まりますよ、今まで我々が目撃した事が無い『一つ上』の戦いが。と言っても一瞬の事でしょうがね」

私は頷くと達郎とアークエンジェルの方に向き返る。
全て理解しているという風に語るアビゲイルに疑問を感じずにはいられなかったが、とりあえず優先順位としては達郎の行く末の方が高かった。

ブロンズの彫刻の様なアークエンジェルはその感情を感じない瞳で達郎を見据える。その瞳からは何を思い何を感じているのかは計り知れない。
一方達郎の方はMURASAMEを両手で右水平方向に構えながらちゃんばらを始めようとする小さな子供のように無邪気な笑みを浮かべている。
両者から発生されている気は少しでも気を感じる術を知るものなら弾き飛ばされると感じるほど強力なものである。

対峙しだして1分ほど経過したところで動きがあった。

「ジョア!」

先に仕掛けたのはアークエンジェルの方であった。見る限り先に仕掛けるのはまず達郎だろうと思っていたので意外と言えば意外だ。
左腕を大きく振り上げるとそのまま顔めがけて振り下ろす。

ギーーーン

鈍い音がする。アークエンジェルの攻撃に対して達郎は左腕に嵌めたシールドで受け止めたのだ。シールドは達郎の霊圧に反応してか分厚い六角形状の鉄板に見える用にまで具現化している、それだけ達郎の霊圧が高いと言う証拠か。

「やるじゃねぇか」

達郎はそう言ったのか実際分からないほど小さく呟くと片手に持ち直したMURASAMEをそのままアークエンジェルに向けて振り上げた。

スパッ

まさに一瞬だった。いや、私にはそれが切れたのがすぐには分からなかった。
振り上げた直後は何も起きなかった。が、数秒後アークエンジェルの左腕と左羽が本体から少し離れ、そして直後に消滅した。

「URIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!!!!!!!!!!」

切られた事を認識するが分からなかったアークエンジェルはようやく自分の身に起きた現実に気づき、激痛の悲鳴をあげる

「じゃぁ・・・な」

達郎はやはり小さく呟くと大きく仰け反ってもがいている哀れな天使をに向けてMURASAMEを左から右に振り払う。

ツーーーー・・・・ズバン

先ほど同様、切り付けてから数秒後にアークエンジェルの胴体は鋏で切られた写真のように上半身と下半身が分離し・・・そして消滅した。

「・・・す、すごい・・・」

戦いが始まって僅か1分足らず。これがADAMの力なのか。
当事者の達郎は冷気の様なものをただよせたMURASAMEを手に持ったまま立ち尽くすしていた。

「た、達郎?」

私の言葉にまったく反応しない。

「お、おい」

今度はフラっと体がゆれた・・・かと思うとそのまま前に倒れこむ。

「達郎!」

私は慌てて達郎の元に駆け寄った。

「おぃ、どうした!達郎!たつ・・・・・」

Zzzzzzzzz

「ね、眠っている?」

仰向けにした達郎からは寝息が聞こえた。

「どうやら、慣れないことをしたので体の方がついていけなかったのでしょう」

ゆっくりと追ってきたアビゲイルは私の背後から意見を述べる。

「みたいだな」

幸せそうに眠っている達郎の表情を見て私はホッとすると同時になにか異質な感情を感じた・・・・・もしかしてこれは。

「どうかしましたか?ディータ=ダークス」

達郎の顔をじっと見ていた私にアビゲイルは怪訝そうな表情をする。

「い、いや。なんでもない」

イカンイカン、なんかろくでもないことを考えそうになっているな。

「さて、これからどうする」
「そうですね。とりあえず彼を医務室に連れて行って起きるのを待つとしましょうか」

私はアビゲイルの意見に同意すると達郎を使い魔達に運ぶように命令し医務室へと移動する事にした。












「ここは?」

廻りは暗闇に包まれている。感覚も自分が存在するのか疑問になるほど不確かだ。
確か先ほどまで羽野郎と闘っていて、あいつらが変な踊りをしていたはず・・・しかし今は何もない、そばにいたはずのディータも暗闇のせいなのか見当たらない。

「ディータ」

暗闇の中俺は叫んで(その行為自体もかなり不確かなのだが)みたが返事は返ってこない。

「これは・・・夢か?」

このいるようでいないような感覚。色彩があるのか無いのか認識できないこの感覚。やはり夢か?

「違うな」

俺の考えに応えるように返事が返ってくる。

「え?」

驚いて廻りを見回すが声だけで姿は見えない。

「夢のようでもあるが脳が記憶と妄想を元に生成するフィクションではない。ここはお前の意識下の現実、平たく言えば『心』の中だ」
「いったいどういう・・・それにお前はだれだ?」
「俺か?俺は・・・お前だよ」

声だけの主はそう言うと闇の中から現れる。その姿は・・・・そう、俺だった。

「なんで・・・俺が・・・」
「そりゃまぁ、お前自身だからな、これで女の姿ただったらそれはそれで困るだろうが」
まぁ、それもそうだな・・・って納得してどうする。

「じゃあなくて、もしお前の言う通りここが俺の意識下だとしたら、俺という意識がここにあるのになんでもう一人俺がいるんだ?多重人格かなにかか?」
「まぁな、確かにお前の言う事ももっともだな。まず、俺は別人格ではない。お前がまだ制御しきれずにいている『過剰』な意識っていう所かな?」
「制御しきれていない意識?」
「そう、先ほどの戦いで開放された『霊子力』を制御するための意識。まだほんの少ししか開放はされていないがな。」
「・・・分かったような分からないような・・・」
「まぁ理解しなくてもいいさ。どうせそんな事を知ったところで、なんの意味もないからな」
「そうなのか?」
「そういう事にしといてくれ」

そういうことにしとけって。・・確かに似てるな・・・この大雑把なところは俺である証拠なのだろうか?

「ふぅ・・・。で、その意識が俺に何のようだ?」
「そうだな、挨拶と忠告を」
「忠告?」
「あまりあの組織を信じるなよ。表層的な記憶としてはまったく無いだろうがDNAがこいつらの危険性を警告している」
「ディータ達が危険だって?」
「いや、彼女達がではなく彼女いる組織の中枢が・・・だ」
「何をしっているんだ?」
「知っているんじゃない、感じるんだ・・・かすかに覚えている親から受け継がれた記憶が警告を発している」
「親?それはどういう・・・」
「クソッ。だめだもう目覚め始めている・・・いいか!気をつけるんだ!」

そういうともう一人の俺は霧のように消えていった。

「気をつけろ・・・か。一体・・・・・う・・・・ぅ・・・・」

急に光が差し込んだと思うと急に思考が低下していくのを感じ意識は薄れていった。












「お、目覚めたか」

ん?女の声・・・か?

「おいアビゲイル、達郎が目覚めたみたいだ。おぃ達郎、聞こえるか?」
「ん・・・」
「ディータだ。聞こえてるんなら返事をしろ」
「あ、ディータ・・・・・・・こ、ここは?」
「医務室だ」
「頭がフラフラする・・・あ、天使は?あの羽野郎は!・・・・・?」

あれ?さっきも同じ事を言ったような・・・いつだったか?・・・・だめだ思い出せない。何かあったような気がするが・・・喉まで出かかっているんだ・・・・だめだ・・・もう思い出せない。

「天使は・・・お前が倒した。一瞬でな」
「俺が?」

まったく記憶が無い。

「やはり記憶が無いか。やはりアビゲイルの言う通りだな」
「どういうことだ?」
「お前の無意識の内なる本能がお前の潜在力を引き出し、天使を倒していたと言うわけだ。で、お前の意識はそれについていけずに一時的に退避、ま、寝てたと言うわけだ。言ってしまえばもう一人のお前が代わりに闘ったと言う事だな」

本能・・・・もう一人の俺・・・・先ほどそれに関する『何かが』あった気がするが・・・・くそ!思い出せない。

「いけませんよ、ディータ=ダークス。別に彼は多重人格性ではないのですから、そんな乱暴な言い方は誤解を招く元です」

こちらにやってきたアビゲイルがディータの意見を否定する。ディータの言っている事はよく分からなかったが何故かそのことだけは理解できた。

「あーー、いいぜ、別に。よーするに俺がなんだか良く判らない内に天使野郎を倒しちまったと言う事だな」
「結論から言うとそういうことだ。すごかったぞ、まさに一瞬だった」

よほど凄かったのだろうか?それはディータの興奮した口調で語る様子で理解できる。
かく言う俺は意識が無かったので倒したと言う感覚が無い。あ、一匹倒したなそういえば・・・でもやはり今ひとつ実感らしい実感は沸かない・・・。
あぁ、身体だりぃ、早く家に帰ってシャワーでも浴びてぇ・・・あ!

「おぃディーダ。今何時だ?」
「ん?午後7時だが」
「7時?夜パーティやるって言っていってたじゃねぇか!俺もう帰るぞ。って言うかディータお前も行くぞ!早く用意しろ!」
「・・・・・・」
「どうした?」
「いや、研究所も天使のせいでちょっとめちゃくちゃになってしまったしな、片付けとかあるから今回は遠慮しておく」
「そうか・・・じゃぁ俺は帰るからな」
「あ、達郎・・・」
「ん?あぁ、手伝う件な。ちゃんと考えとくよ。また連絡してくれ」

今はそれどころじゃない、頼子との約束を反故にする・・・後が怖すぎる・・・

「バイクあるか、バイク!」
「あぁ地下一階の駐車場に」
「一台借りてくぞ、じゃぁな」

俺はさっきの『疲れた』は全て忘れ速攻で家路につく為挨拶もそこそこに部屋を出て行った。







「忙しい少年ですね」
「あぁ頼子がよほど怖いんだろう」
「頼子。あぁ達郎の義理の姉ですね。ところで宜しかったんですか?今日はパーティだったんでしょ?」
「しょうがないだろう、研究所がこんなありさまでは。それにアビゲイルに少し問質したい事もあったしな?」

アビゲイルの顔を真剣なまなざしで見ながら答える。

「問質したい事?」

アビゲイルは『なんのことでしょう?』という顔で答える。

「とぼけた顔しても無駄だぞ。お前達郎のことで何か知ってるな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「先ほどからのお前の口調や態度はあまりにも不自然すぎる。お前のような理論派を絵に描いたような人間が矛盾するような態度を見せるときは必ず何かを隠している時だ!違うか?」

私は捲くし立てるように問い詰める。

「はぁ・・・分かりました。私が知っている事をお話します。どうせ黙っていても貴女はきっと調べてしまうでしょうからね」

ため息をつくと諦めたように話し出す。

「私の知っている事。それは彼が『ADAM』であるということです」
「彼がその素質がある事は、そんなことは私も知っている。そうではなく私の知らない核心的な何かを知っているはずだと聞いている・・・・え?ADAMである事?そういえばさっきから『達郎=ADAM』を証明済みのように言っていたな」
「えぇそうです。彼は『ADAM』です。要素や候補というレベルではなく彼が『ADAM』です」
「まて、彼が『ADAM』の一人かどうかはほぼ間違いないにしろ確定したわけではないぞ。達郎には彼が確実に『ADAM』であるかのように話したが。そんなことはアビゲイル、お前だって分かりきっているはずだが・・・そうか・・・やはり、私の知らない何かをお前は知っているな」
「あなたの知らない何かですか・・・・本当は貴女が一番わかっているはずなのですがね」
「どういうことだ?」
「つまり貴女はこの事実を内に封印していると言う事です」
「??????」
「ふぅ。やはり何も覚えてないようですね。分かりましたお話しましょう、まぁ立っているのもなんですから座ってください」

アビゲイル私に椅子に座るように促す。私は言われるように手近のいすに座った。それを確認するとアビゲイルも椅子に座る。

「さて、お話しましょうか・・・・あ、そうそうディータ=ダークス。貴女は上座達郎に惚れてしまったとか思っていませんでしたか?」
「え”・・・そんなことあるわけ無いだろうが」

即座に否定する。
しかし・・・達郎から出会ってから感じるこの感覚は『それ』だったのだろうか?
そう思うと急に胸がドキドキしてきた。思わずうつむいてしまう。

「そうですか。そういう感情が出ていましたか」

私の態度に誤解したらしく、自分の問いにYesと私が答えたと解釈している。


「ち、ちがう。お前が変な事をいきなり言うから・・・」
「・・・・真意はどうあれ貴女の感じた違和感の感情はそう思ってしまっても仕方が無いことなのですから気にされなくてもよいと思います」

アビゲイルは特に私をからかう事も無く淡々と話を続ける。

「い、一体それはどういう・・・・」
「やはり・・・本当は黙っているべきなのでしょうが、言わなければ今後のことに差し支える可能性があります・・・知ってしまってもその可能性はありますが・・・あなたなら自制が効くはずですし」

????

「何を言っているのかさっぱりだ。アビゲイル、はっきり言え!それがどんな事であっても受け入れるだけの覚悟はある」
「後悔するかもしれませんよ」
「聞かないで後悔するより聞いて後悔した方がいい。ここで言わなくてもお前が言ったように私はなんとしても調べるぞ」
「分かりました。冷静に聞いてください。ディータ=ダークス、あなたは・・・」

ゴクリ

「あなたは・・・上座達郎の・・・そう『ADAM』である彼の実の母親です」

過去の真実と現在の現実・・・虚構の歴史と残酷な未来は何をもたらすのか。
黙示録の扉は今・・・内なるものと共に解きはなたれる


Writing finish 2000/07/07