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バスタ小説「生贄」第八話「 」A-Part
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「これが神にあがなう力!『卵』の状態にしてこの高純度高密度エネルギー!すばらしい。」

包まれる光の中、醜悪な大男は会心の笑みを浮かべる。
同じ時、暗闇の青年は笑みを浮かべ、天空の少女は顔を背けた。


・・・一つの個体は活動の終わりを告げ、代わりに『終局』と言う名の胎動が目覚めはじめる・・・・







母さん・・・


私?を呼ぶ声が聞える


母さん・・・


『母さん』と呼ぶその声はやけに聞き覚えがある。


母さん・・・


背後から聞えるその声の主を見定めようと振りかえる


母さん


そこには・・・・・上座達郎が微笑みを見せながら立っていた。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・・」


一瞬ぼやけたかと思うと先ほどとは違う映像が目の前に映りだす。

「・・・・・・・・・・・・・ゆ・・・め?」

目の前の映像がはっきりしていくにつれて私は先ほどの映像が夢である事を自覚する。

「眠ってしまっていたのか・・・」

どうやら部屋の中でそのまま眠ってしまっていたらしい。

「昨日は・・長かったからな・・・・」

そう独り言を呟きながら斜め下に表示されているカウンターを見る。

1803・・1802・・1801・・1800・・
カウントダウンされていくカウンター

「後・・30分か」



ヴーーーー−−−−−ン



私以外の誰もいないこの室内はガラス向こうの微弱なモーター音だけがここが現実であることを示している。
ガラスの向こう・・・・そこに見える何本ものチューブが這い出ている大型シリンダー・・・後30分・・・それで全てが決定する。シミュレーションでは完全だった。きっと大丈夫・・だ。
不安な気持ちを無理やり抑え込む。
うつぶせていた上半身を持ち上げそのまま背もたれに体重を預け顔を天井にあげた。
そこには部屋を照らす少し青みかかった蛍光灯が瞳の中に映る。

「そういえば、頼子はどうしただろうか」

ふと、脳裏にあの場面が浮かんだ。



27時間前



光が発生したとおぼしきその現場に到着した『私』こと、ディータ=タークスはその現場の光景に驚愕せざる終えなかった。
それは「なぜこうなるのか」という違和感が驚きと言う形容で表現されたと言ったほうが適切かもしれない。
そこは何も無かった。「崩壊」や「瓦礫の山」という表現はこの場合全く当てはまらない。
観測された半径50Mの巨大な光の円そのままにごっそり物体が消失している。
ヘリを降りるとそこには達郎を膝枕をしている頼子の姿が見えた。

「頼子!頼子!大丈夫か!」

近くによると彼女達は血まみれなのが確認できた。どちらの血なのか分からないほどに双方とも真っ赤に染まっている。

「け、怪我は無いか!」

私の返事に頼子はうなだれたまま反応しない

・・・・・・・・・・・

いや、ヘリの音で聞き辛いが何か何か呟いているようだ。私は耳を近づける。

たつろう・・・たつろう・・・

聞こえた。それは壊れたレコードのように繰り返し繰り返し自分の膝でピクリともしない男の名前を呟きつづける。一種の放心状態になっているのだろう。

「頼子・・・しっかりしろ」

うな垂れ呟きつづける頼子のその頭を両の手で挟みこみ無理やり持ち上げる。が、無反応・・・焦点が合っていないのか瞳が真っ黒に染まっている。

「頼子!」

私はもう一度呼びかけた

「・・・・・・・・・・デ・・・ディータ・・・・?」

気が付いた。今度は呼びかけには反応した。疑問府ながらも私を認識している。

「大丈夫か?」
「え?」

私の『大丈夫か』に対して現状を把握しようと彼女はゆっくりと周りを見まわす。
そして自分の膝の上に体重を預けている存在を確認した時点でハッとした表情を見せ次の瞬間、叫んだ。


「この子を・・・達郎を・・・・助けて!!!!」



その一言でこの大量の血が達郎のものだと理解した。

・・・・くっ、何てことだ。

それを認識した瞬間、私の目の前が揺らぐ。動揺していることを自覚する。

この大量の血が全て達郎の

・・・しかし・・・私は無理やり気を取り戻す。今は自分の事より頼子だ。
その当人は狂ったように私の方をつかみ何回も揺さぶる。その都度発する「助けて。助けて」は絶叫といよりももはや号泣に近かった。

「助けて!助け・・・・て・・・」

しばらく叫びつづけていたが突然頼子が私に体重を預けるように倒れこむ。倒れた頼子の後ろには防菌マスクをつけた局員が立っていた。右手には無針注射を持っている。沈静剤か睡眠剤を投与したのだろう。

「よし。頼・・・いや、女のほうは病院へ搬送。ADAM1はラボだ」

ADAM1・・・ヘリに乗っている間に考え決断していた事。もし彼に何かが合った場合「ADAM1」という素体として処理する事。で、なければ「母親」としての自分が半端な決断をしてしまいそうだったから。そう、結局私は記憶の封印を解除した後も変わることが無かった。いやむしろ「母親」であるという記憶を得た事で妙に意識してしまうようになっていた。
アビゲイル曰く「原因がはっきりしているだけ心の整理もつきやすでしょう。どちらにしろ彼に対する心の葛藤は避けられないのですから」
確かに整理はついたし、そのおかげで覚悟が出来た。こうやって血みどろに倒れている達郎を見ても軽い動揺はあってもパニックに陥る事も無く冷静に対処できる。

「・・・・私は冷酷な人間なのかもしれないな」
「え?」

私の呟きに達郎の搬送作業を行っていた局員が不思議そうな顔をする。

「いや、何でも無い。搬送作業は終わっているな。よし、至急やってくれ。あちらでの指示はアビゲイルに聞いてくれ」
「ドクター」
「なんだ?」
「・・・いえ、これをお使い下さい。それと、そんなことは無いですよ。私達は分かっていますから」

そう言うと局員はハンカチを渡し、達郎を乗せたタンカーと共にその場を離れていった。

「?」

局員の不可解な行動に一瞬躊躇したがすぐにその意味を理解した。

「なみだ・・・・・か」




私が弱いのか、それとも人は移ろい易いものなのか・・・つい数時間前の決意はもう揺らぎ崩壊している。
彼を、ADAM1として扱おうとしたその心は既に無い。目の前にいる新しい命に私は愛情を感じている。母親としての感情・・・、に違いない
世界の命運、人間の命運・・・目覚めた彼にその枷を与えるのだろうか・・・しかし私は・・・

時折循環を行なうために注入される酸素の泡につつまれた「彼」を見ながら私は再びまぶたを閉じた。






頼子回収から2時間後(25時間前)



「辛うじて生きてはいます・・・いえ、もうこの状態は『生きている』とは言えませんね」

ラボへ現場から戻った私を迎えたアビゲイルはまず報告をし「彼」の在る所へと導くために歩き出す。

「細胞の自殺因子が異常です。ほぼ全ての細胞が同時に活動を放棄しようとしています。見てください。」

目の前に見える【D】と書かれた扉。
そこに「彼」が収容されている。


ウィン


通されたその部屋のほぼ中間がガラスで仕切られ手前側に制御用の機器、奥側には大型シリンダーが二本設置されている。
機器には目もくれず、中央のガラス壁に近づく。

「・・・・・・・・・」

私は声を詰まらす。そこにはシリンダーに収容された達郎の姿あった。
その身体は微妙な伸縮膨張と微かな点滅発光を繰り返している。

「体組織が一斉に崩壊し広がろうとしているため膨張しているように見えます。発光は組織自体が行っているのではなく、崩壊のため色素が半透明化し光を透過しているの為です。」

私の横に立ったアビゲイルはこの現象を説明する。
・・・なるほどそれを無理やり抑えているのか。

「後、どのくらい持つ?」

一呼吸を置いて私は冷静にアビゲイルに問う。

達郎が人間としての状態は既に終わっている。ここで言っている「持つ」はADAM1を繋ぎ止める器としての時間だ。

「彼の機能は絶縁神経の認識順序を逆行して停止しています。現在既に視神経と両脚の末端部は消滅しています。甘く見積もって・・・12,3時間といったところでしょうか」
そうか・・・

「アビゲイル」
「はい」
「しばらく・・・・『二人だけ』にしてくれないか」
「・・・・わかりました。しかしもう時間が在りません。決断・・・いえ『覚悟』は早めに決めてください」
「判った」

アビゲイルは私のその言葉を聞くと部屋を退出していった。





「すまない、達郎。私が不甲斐ないばっかりに最悪の結末になった。いや、そもそも私が達郎を生贄に捧げなければこんな事にならなかったか。例えなすすべも無く人類が滅亡しても、例え宇土の娘を贄に捧げたとしても、お前を守るべきだった・・・・・と悔いの言葉を発してもむなしいだけだな。そんな事を言いながら私はまだお前を悪夢へ誘おうとしているのだから。」







幾分かの沈黙。その間、私はこの言葉を発する『覚悟』『決断』をするために葛藤していた。いや、違う。私は決断も覚悟もとうの昔に済ませている。足りなかったのは、必要だったのは、それを実行するための『勇気』。

「達郎。私はお前のその魂を新たな器に移す。お前はきっとお前の命を好きなように弄ぶ私を怨んでも怨み尽くせないだろう。だけど私は断行する。それがこのシナリオを作ってしまったものの責任だから・・・せめて、こうなってしまった事の意味すら無くなってしまわないように・・・」

もう、留まる事も後ずさる事も許されない。

「そして、出来ればそれが終った後、新たに普通の生活を送って欲しい・・・だから・・」

あふれ出る感情に支配され声を詰まらせてしまう。

「う・・う・・・」

嗚咽だけしか出ない。私は唇を抑えとめどなくあふれるこの感情を押さえ込もうとする。その時だった。



――――タノムヨ





達郎の・・・声?

急に引いて行く感情。私は再び彼の方を見る。そこには先ほどと変わらない消え入りそうな達郎の肉体があるだけだ。

核が私の言葉に答えたのか?それともただの都合の良い幻聴か?
・・・いい・・・どちらでも・・・いまの私には。言葉が聞えた『事実』だけで、揺らぐ事無く、前に進める。少なくとも今は。多分数時間後の私の心は揺らいでいるだろうしかし重要なのは今の私の心だ。
すでに先ほどの感情はなりを潜め冷静な私がそこにいた。
私は涙目の瞳を拭き、スタっと踵を返すとドアに向かって歩き出す。
そう、決まったのなら迅速に、既に時間は無いのだから。

「決まったようですね。」

開いた扉の向こう側にはアビゲイル、そしてD計画のスタッフが待っていた。

「あぁ、待たせてしまったようだ」
「いえいえ、あなたの良いように。あなたにはその権利がありますし、その権利は放棄してはいけない、むしろ行使していただかなければいけません」

優しい言葉に聞えるが、おそらく「逃げ道」をふさがれているのだろう。アビゲイルはそういう男だ。

「そうだな・・・・・・・・よし!手前勝手ですまないが時間が無い。30分でスタンバイを頼みたい。」

私の言葉に対しだれも返事は無かった。だがその表情は「任せてください」と答えていた。

「では各自、準備を始めてくれ」


アビゲイルがその当時のことを綴ったデータディスクにはこう記されている。
「あの方は優しすぎたのです。その優しさ故に引き起こされてしまった矛盾に悩んでいました。友人として科学者として母親として、取捨選択をしてもその選択に対して自問自答を繰り返していたのでしょう。いえ、彼女は決して、臆病だったり優柔不断だったりした訳ではないのです。強い心の持ち主です、だからこそ常に悩んでいたのでしょう。彼女にとってみれば私の施した記憶解除は不幸なだけだったのかもしれませんね。それに対する後悔は・・・・・・無いですね。私はロジック(論理的)な人間ですから。それは親しかった彼女に対しても同様です。 」



25分後



準備された部屋の光景は一般的に認識されているオペのそれとは大きくかけ離れていた。
第1印象としては西洋魔術の儀式風景と言って良いだろう。
「聖霊石」「妖魔石」とも呼ばれる霊壁結晶体『マグネタイト』が六芒星状の形を成すように配置され天井、床に「生命の樹」と呼ばれる『セフィロートの樹』が天井が凸、床が凹で刻印される。
六芒の各辺をなぞるように帯幅30センチの真円のホログラフが1メートル毎のセキソウ配置を成しその円盤にはルーン文字が浮かぶ。
中心部には巨大なシリンダー状の物体が二つ並ぶ。一つは今にも物理的に消滅しかけている達郎の肉体が、もう一つには彼の核とも言える「魂」の新たな器となるべく用意された『D』が。
部屋自体には誰もおらず、全て霊的に精製された白銀『ミスリル』により作られた遠隔操作可能な器具により硬化ガラスを隔て行われる。なぜか。それはその部屋が液体によって満たされている為。その液体はシリンダーに入っていた液体と同じ『聖水』。その実態は人工的に作られた「羊水」である。
つまりこの部屋は科学的、霊的にプロテクトされた人工の「子宮」。オペの環境としては最善であり且つ絶対なのだ。

「・・・では、術式を始めるとしようか」





ウィン


扉が開く音。私は後ろを振り返る。
そこにはアビゲイルの姿があった。

「時間ですね。」

私は目線を先ほどのカウンターに持っていく。

「0」

点滅を繰り返す0のデジタル文字。時がきたのだ。


プシューーーーーーーー・・・・・・・・


『D』を包んでいたシリンダーが上部に上がっていき天井の中に消えていく。
そして一人の少年『D』の姿が残る。

「ん・・・・」

数秒の間を置いて少年はゆっくりを瞼を開いた。
そして、何も知らない無垢の小動物のようにキョロキョロと周りを見渡しはじめる。

「クスっ」

私は両手を広げて彼を呼んだ。

「おいで」

・・・私は彼が目覚めるまでの数時間考えていた事がある

「こんちわ。はじめまして」

素直にこちらに来た彼の前に私はかがみこみ挨拶をする。

・・・そう、彼は達郎の魂を受け継ぐもの

「私の名前はディータ・ダークス」

・・・そして私の『もう一人の息子』

「あなたの名前は」

・・・周りのものは「欺瞞」だと言うだろう。これはエゴイズムの極みだ。だが私はこのエゴイズムを止める事は出来ない。いや、あえて止めはしない。

「ダーク・ス・シュナイダー」

・・・私の名前をあなたに込める

「ダーク?」
「そうよ、あなたの名前。よろしくね、ダーク」

・・・そして

そして私は彼・・・ダークをギュッと抱きしめ、彼にも聞えるかどうか判らないほど小さな声で呟いた。

「おかえりなさい・・・・・・・・たつろう」




第八話「・・・ソシテ、サイセイ」








なまにえの呪文:
6ヶ月・・・やっと出来ました。なげー以前にやる気あるんかぃ!と自分を突っ込んでしまいます。
今回のパート、結構悩みまくりました。主眼がディータに変わり「達郎の母親であることを自覚している彼女」をどう扱うか・・・実際今もうまく表現できずにいる次第です。上手く伝わっていると良いんですけど・・・最後の所もちょっと表現が足りなくはしょっている感じになってしまってますね。そのうち直せたら直したい所です。
さて、今後ですが8Bから9Cまでは一ヶ月一度掲載できるように頑張りたいと思います。んで、最終話(10話)は少し形式が変わる予定なのでまだなんとも言えませんが大体2ヶ月強で終らせる予定です。ですので予定だと7か8月には完結させたいな、と。
それでは今後も飽きずにお待ちいただけると嬉しいです。あと感想なんかBBSにでもちょこっと書いていただけると・・・んでわ。
#うーん反省ばっかだ


Writing finish 2001/12/26