バスタ小説「生贄」第八話「・・・ソシテ、シンセイ 」B-Part
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シャカシャカ、シャカシャカ

コンコン

扉の向こうからノック音が響く。

シャカシャカ、シャカシャカ

私はそれには反応せず現在の作業に没頭する。

「ディータ=ダークス、入らせて貰いますよ」

今度は声がした。アビゲイルのようだ。

「勝手に入ってくれ」

反応はしたが目線は扉の方は向いていない。

シュイン

ドアがスライドする音とともにアビゲイルが入ってくる。

シャカシャカ

「ディータ=ダークス。ダーク=ス=シュナイダーが見つからないのですが貴方のところ・・・に・・・何をなされているのですか」

しゃべりながら入ってきた彼は私の姿を視認した(と思われる)とたん言葉を詰まらせた。

「何って・・・見ての通りだが」

私は手を止めずにアビゲイルの方をチラッとみた。

「あーーーー!アビーーーーー!」

『作業』の対象が元気な声をあげる。

「こーら、ダーク。頭動かさないで、じっとしてる」

そう言いながら私はダークこと『ダーク=ス=シュナイダー』の頭を元の位置に戻し、再び作業を始める。

「はーい」

言われたダークの方はおとなしく言う事を聞く。

「私がお聞きしているのは『なにをしているのか』ではなく『こんな所で何故、彼の頭を洗っているのか』です。」

アビゲイルの言う通り私は今、自分専用のラボでダークを洗ってやっている。小型のエアーボートを部屋に引っ張りこんで浴槽変わりにし、裸のダークをその中にいれている。洗う方の私はボートの外だが白衣のままではなく濡れても良いようにタンクトップに半ズボンという軽装だ。
確かにいる場所に対してやっている事を考えると面食らうのは仕方ないだろう。

「なんとなく」

簡潔に答える。理由を小1時間語ってやっても良かったのだが面倒なのでその選択は却下した。

「フゥ・・・。まぁどうされようと貴方の自由ですし。それとダーク=ス=シュナイダー。私は『アビ』ではなく『アビゲイル』です。違和感があるようでしたらフレンドリーに『アビちゃん』でも構いませんよ」
「おぅ!わかった」
「御理解いただけましたか。それは良かったです」
「でさ、アビアビ。ディータって頭洗うの上手なんだぜぇ」
「・・・・・・」


ダークが誕生してから既に2週間、今のところ拒否反応も無く順調だ。
誕生4日目からありとあらゆる知識の「流し込み」を行った。その情報量たるや数テラバイトに及びちょっとした図書館なみだろう。ただ、その情報を有効に活用する応用力やメンタル面の構築と言った作業はそう言う訳にも行かない。理想は肉体の成長に併せて(と言っても成長速度は常人の数倍)学習させていくのが理想なのだが・・・・



【12日前】



「報告は以上です」

暗闇の中、10枚の光るパネルに凹状に囲まれる。パネルには男女の顔が各々映る。彼らが組織の中核を担う重鎮達だ。

「いよいよ『D』もロールアウトしたか」
「後は、『黙示禄戦争』の時までに万全を期せるかだ」
「『A』の方は後27日で成熟するt」
「では全てはD次第と言う訳ですな」
「報告書によれば『応用、人格形成プログラムは順次対応』となっているがどう言う事か?」

20の瞳が一斉に私に注がれる。

「当プログラムに関しては慎重をきたさないとダー・・・いえDの精神崩壊に繋がる場合があります。人工生体とはいえメンタル的な部分は人間と大差はありません。」

その回答に対し予想通りの言葉が次々と帰ってくる。

「しかしそれでは約束の時には間に合わない」
「それに時間はあったはずだ。時間の無い原因はギリギリまで躊躇していた君にあると思うのだがね」
「とにかく・・だ、我々には既に時間が無いのだよ。今までは君の裁量を信頼して一任してきたが今後は介入もありえる事を肝に命じておいてくれ」

「・・・・・はい・・・・・」

「次回の報告は2週間後とする・・・・それでは閉会」

次の瞬間、全てのモニターは切れ暗闇の中でただ立ちすくむ私だけが残った。

既に約束の時は刻々と近づいている。時間が無くなった主な原因は彼等の言う通り私にある。しかしだからといって「彼」をこれ以上苦しめるのはとても辛いことだ。彼には過酷な運命が待っている。だからせめて今だけでも・・・フゥ・・・だがそう思うことすら私にとって欺瞞でしかないのだが。

私はクルリと踵を返し暗闇の密室から退室していった。




「で?何の用事だアビゲイル。まさか私のプリティボディやダークの裸体を覗きに来たわけでもあるまい」

ダークの髪に付いたシャンプーをお湯で流しながら、問いただす。

「えぇ、全く違います」

冗談で言ったのだが真顔で否定されると少し傷つく。

「そろそろ『トレーニング』の時間なので呼びにきました」
「あ、もうそんな時間なのか。ダーク、着替えておいで」

バスタオルで軽く全身を拭いてあげた後にポンと頭を軽くはたいた。

「うぃー」

ダークはバスタオルをぐるぐるまわしながら彼の服が置いてある所ダッシュしていった。

「ところで」
「ん?」
「ディータ=ダークス。余計な事を言うようですがダーク=ス=シュナイダーにあまり入れ込むと、後で辛いですよ」
「分かっている」

判っているさ、アビゲイル。しかし、だからといってこればかりは無理な注文だ。
多分それは彼も判っている。論理的な男であるが冷血漢な訳ではない。だから、だからこそ今も敢えて苦言を呈しているのだろう。

「言葉はありがたく受け取っておくが、これは私とダークの問題だ。」
「そうですね。貴方はとても聡明な方です。ご自分の立場とやるべき事は冷静に判断できるはずですからこれ以上は何も言いません。ただ・・・」
「ただ?」
「いえ、なんでもありません。さて、ダーク=ス=シュナイダーの着替え終わったようですし、行くとしましょうか」

そう言うと彼は一足先に部屋を出る。ダークもそれに習って「アビ〜、まてよー」とバタバタと後に付いていこうとする。

「ディータも早く行こうぜ」

途中振り返り、私を誘うダーク。

「流石にこの格好でラボには行けないからな、着替えたらすぐにいく。先に行ってなさい」「おぅ!判った」

そう言うとまた「アビー」と元気な声を出しながら部屋を出て行った。

「さて」

私も早く着替えて行かないとな。


人の意思、人の信念、人の情熱。それは心の強さを図る天秤に乗ったオモリ。常に「誘惑」や「まよい」というもう一方のオモリとの微妙なバランスによって成り立っている。片方の想いが強くなればすぐにバランスはくずれそのバランスを戻すのは難しくなる。そのバランスの揺らぎが「拒絶」「逃避」などの排他的行為を生み出す。人は危ういバランスの上に自己を形(けい)している。
バランスの揺らぎ、そしてそれの連続は物事の行く末をラビリンス(迷宮)へと導き、その揺らぎもまた新たなる揺らぎを誘発する。
いま作られた揺らぎの先の現実はこれからどこへ進んでいくのだろうか。幸福?破滅?それは誰にも分からない。ただそれが「真実」だと信じて進んでいくだけ。ただそれだけ。



【4時間の後】


「トレーニング」が終了した後、ダークの希望で私たちはこの棟より500Mほど離れた所にある病院へ向かった。
そこには達郎の姉であり恋人であった頼子が入院している場所だ。
一時はパニック症状でかなり酷い状態だったが今ではかなり落ち着いてきている。
先生の話だとダークが遊びに来ていることによりメンタル的にだいぶ安定しているとの事。前の彼とは全くの別人だが「肌」で感じるものがあるのだろうか。
ダークもまた頼子のことを妙に気に入っていてこの時間を私といる時と同じように楽しみにしている。彼もまた魂の奥底で感じるものがあるのだろうか。

コンコン

「はーい」
「ディータだが入って大丈夫か?」
「はい、どうぞ」

ガチャ

「よーりーこー。また遊びに来たぜ〜。」

扉を開けた瞬間ダークはそう言いながら頼子に抱きついていき、頼子の胸に自らの顔を埋める

「ダークって甘えん坊だよねぇ」
「だってフワフワして気持ち良いんだもん」

ダークの場合は単純にはエロガキだけなんじゃないかと思う時がある。恐らく無意識なんだろうが動作がいやらしく見えるときがある。純粋に甘えているだけなのかもしれないが・・・

「大部顔色も良くなったな」

抱きついている「エロガキ予備軍ダーク」をよそに話し掛ける。

「先生にも言われたわ。あと1週間も入院していれば大丈夫みたい。これもディータと・・」

頼子は自分の胸元にいるダークに瞳を移す

「それとダークのおかげかな」

そう言うとギュッと埋まっているダークの頭を抱きしめた。




「死んだのね」

10日前、初めて頼子が収容されている病室を見舞った時に一番初めに言われた言葉。
当然それは達郎の事をさす。
厳密には彼の魂は「ダーク=ス=シュナイダー」と言う新しい器を得た訳だが「達郎」という個人そのものは既に死んでしまったといって差し支えないであろう。
その彼女の問いに一瞬躊躇した。医者にあまり精神的負担を与えるような事を言わないよう言われていたから。そうで無くてもそのような事を彼女に伝えるのは辛い。
しかし彼女の、頼子の黒く澄んだ瞳を見ると嘘を付く事が出来なかった。
だから私はただ一言告げた「彼はもうこの世にはいない」と。
彼女は「そう・・」と一言返し、しばしの沈黙の後「ごめんなさい今日は一人にして・・・お願い・・・」とそれだけ呟き再び沈黙してしまった。
私は彼女の心中を察しその日はすぐに帰った。出た直後、扉越しに聞えた彼女のオエツが私の胸を強く締めつける。
それから3日後、つまり1週間前、私はあらためて彼女を見舞った。今度はダークを連れて。彼が達郎の生まれ変わりである事は話せないが、せめて彼女が愛した男の今と引き合わせたかった。





「うわぁぁぁ、頼子〜。くるしーよー」

胸中で頼子に抱きしめられていたダークは呼吸をするスペースを失っていたようでバタバタしている。

「え?あ、あ!ごめーん」

慌てて抱きしめるのを止める頼子。

「フゥフゥ。。もうちょっとで窒息ししそうだったぜ。でも、ポワポワで気持ち良かったからあのまんまでもよかったかなぁ」

・・・・浪漫というやつか?

「そういえば頼子」
「ん?なに?」
「ここ数日留美子たちを見かけないのだが見舞いには来ているようか?」
「ううん。そう言えば4日ほど前に四四也君と一緒に来て『一週間ほど出かけるからお見舞いには来れない』って言っていたわよ」
「どこへ行ったか聞いてるか?」
「そこまでは話していなかったわ。あぁでも、ワシントンがどうこう言っていたからアメリカかもしれないわね」

アメリカ・・・か。

「それがどうしたの?」
「ん?いや、ちょっと最近見かけないからどうしたかと思ってな」
「あ、そうなんだ」

何かが動いている・・・嫌な悪寒が私の背筋を走った。そしてそれはそれから2日後に現実のものとなる。

「ディータ=ダークス」
「はい」

先日の報告会からすでに2週間。予定通りに2回目の会は開会された、前回同様暗闇とモニターの光だけが存在するあの部屋で。
私は現在の「D]の状況を説明する。

「君はやはり現状を理解していない」
「私たちは言ったはずだ。時間が無い、急務だと」
「知識と基本能力の蓄積は当然だが、それを正確に運用できる精神力と肉体的能力は必要不可欠なのだ」
「だが、君はそれをないがしろにした」

「ですが!」

「君の弁解なぞ聞く気は無い」
「ディータ=ダークス。君から「D」の運用権を剥奪する」

「な・・・」

「当然「D」はこちらに引き渡してもらう。いや、もう引渡し準備は終了しているがね」

唯一沈黙を守っていた真後ろのモニターが光りを放ち、そこにはカプセルに格納され眠っているダークの姿が映しだされた。
恐ろしく手早い。用意周到と言うべきか・・・しかしそれにしても・・・

「手が早すぎる。とでも思っているのかね。」
「君は純粋すぎるな。君のすぐそばにユダがいる事に気がつかないとは」

ダークの映っているモニターに一人、人影が映し出される。それは

「ア・・・アビゲイル」

「ディータ=ダークス。君の処分はおって連絡する。以上閉会」

無慈悲とも言える言葉だけを残し室内は闇に包まれていった。



なまにえの呪文:
結局予定より2週間オーバーで早速スケジュールから大きく逸脱してますね。Cパートを今月(二月)中にあげるのはほぼ不可能と思われます。3月中にはなんとかしたいところですが。
八話に入って物語の進行方法があらすじっぽい流れの中でシーンを挿入するという形になっています。はじめからと言えば初めからなのですが今話はそれが如実に現れているんではないかと。
私の文章表現能力と物語の進行速度からみるとこう言った「書きたいとこだけ書く」みたいな方式を取った方が比較的楽に進められます。それでこの執筆速度ですから緻密に書いていったらどうなることかとぞっとします(苦笑)。で、この方式の悪いところは本人は物語の筋や心情を理解してるから良いんですがいざ文章にしたとき情報を提供しきれているかと言う事ですね。出来るだけストレートな独白や台詞で表現しているつもりなんですけど多分伝えたい事の50%もかけていないと思います。
そのあたりは設定とか別の資料をつくって補完したいかな。まがりなりにも小説なんで本来なら文章内で書くのが筋なんですがどうも私の脳内能力では無理そうです。
幼年期のダークをもっと書ければ良かったんですがそれはやりだすと切りが無いのであえて止めました。頼子に関しては本筋にはもう参加して来れませんが結末はしっかり書きますので。
やっぱ悩みはディータですね。今の状態だと多分支離滅裂な女だと思われていることでしょう。上手く書けるかな?うーむ(汗
そうそう、このパートの冒頭のお風呂(?)シーンだれか挿絵描いてくれないかなぁ。映像として見てみたいシーンです。とくにディータとかさ(笑
あと、今書いてて気付いたんだけど・・・使い魔どうしましょ(濁汗

Writing finish 2002/02/17